
イギリスの作曲家エドワード・エルガー (Edward Elgar, 1857~1934) は行進曲『威風堂々』(Pomp and Circumstance)OP.39を作曲しました。このページでは解説の後、『威風堂々』の色々な名盤をレビューしていきます。
全部で5曲からなる行進曲集ですが、第1番の中間部はイギリスの第2の国歌と言われるほど親しまれています。現在ではイギリスのみならず、全世界で人気のある曲になりました。
アンコールは威風堂々第一番です。歌詞もついています。
解説
エルガーの威風堂々について説明します。
エルガーは楽器店を営んでいた両親のもとに生まれますが、独学で作曲を勉強し、1904年には「ナイト」の称号をもらっています。最終的には、準男爵という貴族階級に近い所まで行っています。
王室との関係
イギリス王室との関係も強いものになりました。エルガーが最も活躍したのはエドワード7世が在位していたときでした。そのため、「エドワード王朝の作曲家」と言われます。この時代は、イギリスというより、7つの海を支配した大英帝国の最後の時代でした。そして、そのエドワード7世の時代に威風堂々の第一番を作曲したのでした。
題名の『威風堂々』は、シェイクスピアの『オセロ』第3幕第3場にでてくるセリフから採られています。
5曲で構成
『威風堂々』といえば、第1番がダントツで有名ですが、実は5曲から成り立っています。第1番~第5番までの5曲です。それぞれ、イギリス的なのは共通ですがキャラクターが異なり、結構楽しめます。
第1番 ニ長調
1901年に作曲されました。3部形式で中間部に出てくるメロディに歌詞をつけたらいい、と提案したのは、エドワード7世です。エルガーは戴冠式の合唱曲『戴冠式頌歌』から歌詞をつけました。その後、歌詞は変えられましたが、今でも歌われています。
第2番 イ短調
第1番と同じく1901年に作曲されました。この曲も3部形式で中間部を持つ曲となっています。
第3番 ハ短調
1904年に作曲されています。他の曲とは少し雰囲気が違い、短調が強調されていて、pからクレッシェンドしていく力強い曲です。中間部は長調に転じて平穏な雰囲気になります。
第4番 ト長調
1907年に作曲されました。第1番に次いで人気のある曲です。中間部のメロディは、後に歌詞がつけられ、第2次世界大戦中に愛唱されました。
第5番 ハ長調
1930年に作曲されました。第4番から23年も空いています。エルガーも73歳です。少しユニークな曲で6/8拍子のマーチになっています。
エルガーは第6番を作曲するつもりでいて、それでトリにするつもりだったのですが、作曲されることはありませんでした。
それにしても、足掛け30年近く書き足してきたのですね。
おすすめの名盤レビュー
エルガー『威風堂々』の名盤をレビューしていきたいと思います。ショルティ盤とバルビローリ盤が定番です。ここでは、5曲全部が収録されているディスクを中心にレビューします。
ショルティ=ロンドン・フィル (全5曲)
ショルティとロンドン・フィルの録音です。ロンドン・フィルハーモニーは、特に弦セクションの響きが一番イギリス的な芳香のある響きを持っています。全5曲を収録したCDの中で最も素晴らしい名演の一つです。
ショルティはいつも通りキビキビと指揮しています。テンポは少し速めスリリングですが、速すぎずに割と余裕のあるテンポにしています。結果として中庸なテンポになっています。第1番の有名な中間部はロンドン・フィルの弦がイギリス的な響きを聴かせてくれます。また金管も活躍していてダイナミックな演奏となっています。
第2番もリズミカルかつダイナミックです。ロンドン・フィルのホルンも気合いの入った咆哮を聴かせてくれます。中間部もテンポ感が丁度良いですね。第3番は緊張感がありとてもスリリングです。第4番は良いテンポ設定で主題をリズミカルに楽しめます。中間部はとてもイギリス的な芳香のある弦の響きが素晴らしいです。第5番は6/8のリズムがシャープで楽しく聴くことが出来ます。ロンドン・フィルの格調高い弦の響きも味わいがあります。
ショルティはしっかりスコアを読みこんで、とても適切なテンポを取っていて、ロンドン・フィルのイギリス的な弦の響きを活かしています。王道の名盤と言えます。
ボールド=ロンドン・フィル (全5曲)
『惑星』の「木星」の演奏で、イギリス風の格調高い録音を残してくれたサー・エードリアン・ボールトとロンドン・フィルハーモニーの録音です。1977年の録音で音質は良いです。全体的に少し速めのテンポ取りです。このころのボールトは円熟してきた時期だったため、ダイナミックな演奏ですが、イギリス的で紳士的な範疇(はんちゅう)を超えることはありません。
第1番はダイナミックでリズミカルです。自然体のテンポ取りで風格があります。中間部はもっとゆっくりじっくり演奏するかなと思ったのですが、あっさりしている感じはあります。そこがボールトらしい所で、ベテランらしい自然体の演奏だと思います。テンポ取りも良く、充実した名演です。
第2番は他と比べるとかなり速めのテンポでリズミカルです。ホルンの咆哮にも格調があります。第3番のスリリングな盛り上がりは素晴らしく、中間部は自然体の演奏で、とても味わい深いです。第4番は標準的なテンポでしっかり主題を演奏します。中間部はゆったりとした中に誇りの高さが感じられます。第5番は速めのテンポでリズミカルです。コクのある演奏で、中間部は味わい深く、イギリス的な響きが心地よいです。
円熟したボールトの演奏だけあって、聴けば聴くほど味わいが深まってくる名盤です。第1番~第5番まで揃っていますし、音質も良いので、もっと聞かれてもいい演奏かな、と思います。
バルビローリ=フィルハーモニア管弦楽団 (全5曲)
バルビローリとフィルハーモニア管弦楽団の録音です。テンポは遅めでアクセントを効かせたシャープさがあり、格調が高くとてもイギリス的な演奏です。1962年録音と少し古さも感じさせる音質です。
第1番はスケールが大きくダイナミックです。スネヤを中心にパーカッションの打ち込みの強さにイギリスの誇りを強く感じますね。ダイナミックではありますが、あくまで紳士なのです。中間部での弦の音色も良く、非常に考え抜かれたバランスでイギリスらしい弦の響きを引き出しています。
第2番は遅めですが、パーカッションの打ち込みが鋭く、イギリスの軍楽隊の誇りを感じる雰囲気です。中間部はスケールが大きく厚みのある弦の響きが味わえます。第4番は余裕のあるテンポで、誇り高さを感じさせます。要所で誇り高い格調ある響きを聴くことが出来ます。中間部の弦の味わいは素晴らしいです。第5番はリズムがしっかりしていて、遅めではあるのですが、余裕を感じる適切なテンポ設定と思います。中間部もじっくり歌っていて味わい深いです。
テンポが速い演奏、遅い演奏がありますが、好みだと思いますが、バルビローリは遅いテンポの中にイギリスの誇りと余裕を感じるようなスケールが大きく格調高い演奏を繰り広げています。
ノーマン・デル・マー=ロイヤル・フィル (全5曲)
ノーマン・デル・マーという知名度の低い指揮者ですが、地元イギリスの指揮者でマニアの間では人気があります。この威風堂々も凄い名演です。
テンポは多分この中で最速です。シノポリが一番速いかと思いましたが、意外にもイギリス人のノーマン・デル・マー=ロイヤル・フィルは圧倒的に速いです。また、エルガーの自作自演のようにテンポを途中で仕切り直してみたり、変化の大きく激しい演奏です。
この録音は教会で行われたそうです。1976年の録音ですが、それにしては響きがよく聴きやすいです。ちょっと響き過ぎなところもありますが。
でも、教会で録音したことにより、壮大なパイプオルガンとの共演を聴くことが出来ます。こんなにパイプオルガンが目立つ演奏は他にはありません。Promsの演奏かと思ってしまいましたが、そんな圧倒的な演奏で祝祭ムード満点です。
他にも細かく聴いていくと結構面白いことをやっている名盤ですね。威風堂々をこんなに楽しく聴けるCDはなかなかありません。
バーンスタイン=BBC交響楽団 (1番,2番)
バーンスタインは5曲録音していたような気がしていたのですが、見当たりませんでした。その代わりBBC交響楽団との第1番、第2番がありました。とても素晴らしい演奏です。折角なので5曲録音して欲しかったですが、これのメインは『エニグマ変奏曲』なので、仕方ないですかね。
バーンスタインはエルガーと余程相性がいいのか、理想的と言ってもいいくらいのテンポ設定で、スケールが大きく、かつ紳士的な演奏を繰り広げています。第1番に入るパイプオルガンも良いです。オケも上手く、定番となれる名盤ですね。
録音の音質も良く、割と古めの名盤が多い中にあって、音の良さも特筆すべき点ですね。
シノポリ=フィルハーモニア管 (1番,4番)
シノポリと手兵フィルハーモニア管弦楽団の録音です。このディスクはメインはエルガーの交響曲で、威風堂々は第1番、第4番のみ入っています。音質は良く透明感があります。
第1番はかなり速いテンポで目の覚めるようなシャープさで始まります。シノポリらしくかなり感情が入った演奏ですね。録音がとてもよく響きがよくて、気分よく聴けます。中間部に入ると急にテンポを落として、スケールの大きな演奏に変わります。また中間部はフィルハーモニア管弦楽団の演奏も素晴らしいです。
第4番は自然に始まり、ダイナミックに盛り上がっていきます。ダイナミックになっても響きが濁ることはなく、爽快感です。中間部は丁寧で透明感のある弦の響きでスケール大きく盛り上がります。
かなりテンポを動かしている演奏で、情熱的過ぎてイギリス的とはいいませんけれど、なかなか他の演奏では聴けないタイプの名盤だと思います。
ギブソン=スコティッシュ・ナショナル管 (全5曲)
ギブソンとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の録音です。ショルティ盤、バルビローリ盤、ボールト盤と聴いてくると、このディスクはイギリス風というより、どこかスコットランドを感じる演奏ですね。現在では英連邦はスコットランドやウェールズなどもあるので、地方オケの演奏も民族的で楽しめます。録音はしっかりしています。
第1番は速めのテンポでスケールの大きな演奏です。ロンドンのオケほどダイナミックな弦ではありませんが、とてもスケールが大きく、ギブソンの表現も上手いです。中間部もスケールの大きな演奏で楽しめます。
第2番は名演と思います。テンポ取りも良いですし、すっきりシャープにまとまっていてスマートさがあります。ギブソンの表現も良く練られていて、行進曲というより管弦楽曲として楽しめます。第3番は速いテンポでとてもスリリングです。中間部は自然美を感じさせる演奏です。第4番は中庸なテンポで主題を提示します。オケの響きには荒々しさすら感じられます。中間部はスケールの大きな演奏です。第5番は生き生きとした軽快な音楽です。中間部では透明感のある弦が心地良く響きます。
ギブソンの良く練られた表現は「威風堂々」を行進曲から管弦楽曲に昇華させていますね。スコティッシュ・ナショナル管の響きもダイナミックで味わいがあります。実際に演奏する方にはお薦めできると思います。
なんとエルガーの自作自演があります。しかも第1番~第5番まで揃っています。かなり古い録音で、もちろんモノラルです。かなりテンポが速く驚かされます。ホルストの自作自演の時も凄くテンポが速かったのですが、昔は自分の演奏を聴くことは出来なかったので、テンションが高くなると、すぐにテンポが上がってしまう感じですが、それを許容しているみたいです。
でも、エルガーの場合、オケが速くなると途中で急に遅くしたりして、調整しています。中間部などは、今と大差ないテンポで、落ち着いたイギリス的な演奏が聴けます。
それにしても、これだけテンポが大きく変わってアンサンブルが崩れないのは凄いですね。上手い演奏だと思います。
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
コンサートでは圧倒的に第1番の演奏機会が多いです。
佐渡裕=ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団
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楽譜
エルガー『威風堂々』の楽譜・スコアを紹介します。