ファリャ 恋は魔術師(火祭りの踊り)

マヌエル・デ・ファリャ (Manuel de Falla,1876-1946)作曲のバレエ『恋は魔術師』 (ballet el amor brujo)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。

一番有名なのは「火祭りの踊り」です。ただなかなか名作で、全体的に聴き所が沢山あります。

火祭りの踊り(バレンボイム)

解説

ファリャバレエ『恋は魔術師』について解説します。

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作曲の経緯

『恋は魔術師』は作曲の経緯が複雑なので、少し書いておきます。

最初にジプシーのダンサーであるパストーラ・インペリオの委嘱により、音楽劇『ヒタネリア』が1915年に作曲されました。『ヒネタリア』はヒターノ(ジプシー)の気質という意味です。編成は8重奏で、フラメンコ歌手を起用していました。しかし、この作品はあまり評判が良くなかったようです。

フラメンコとは?

アンダルシアにおいてジプシーイスラムユダヤ音楽文化が融合し、フラメンコに昇華した。フラメンコギター舞踊手拍子深い歌という意味のカンテ・ホンドは、ジプシーに関連付けられている。
(Randel 2003: 372)

フラメンコに用いられる旋法は、教会旋法でいえばフリギア旋法(Eから始まる音階)です。フリギア旋法といえばブラームスの交響曲第4番第2楽章のホルンが使用していることで有名です。ドとレの間が半音という、独特な旋法です。フラメンコではレ♭→ドという下降形で解決します。またAGFEという下降音型が特徴的です。

ファリャの音楽はフラメンコの要素が多く入っており、フリギア旋法カンテ・ホンドというフラメンコの歌、メリスマによる装飾AGFEの下降フレーズなどを持っています。

ファリャはスペイン音楽の父と呼ばれるフェリペ・ペドレルに師事し、自分の作品に本格的なフラメンコの語法を取り入れることで、スペインの歴史的な音楽を保護しました。

そこでファリャは1915年~1916年に改訂を行い、フルオーケストラ向けの演奏会向け組曲『恋は魔術師』に編曲しました。初演は1916年にマドリッドのリッツ・ホテルにおいて、バルトロメウ・ペレス・カサスの指揮によるオルケスタ・フィルハルモニカによって行われ、成功しました。

ファリャは『恋は魔術師』のバレエ化に着手し、グレゴリオ・マルティネス・シエラとともにバレエ用の台本を考え、さらに改訂を行いました。

『恋は魔術師』のバレエ化は、ちょうどバレエ『三角帽子』(1919年初演)の作曲と同じ時期にあたります。

バレエ版の初演は1925年にパリのトリアノン・リリック劇場において、舞踏家ラ・アルヘンティーナビセンテ・エスクデーロによって行われました。

あらすじ

ジプシー娘のカンデーラの物語で、その恋人のカルメロは彼女の以前の恋人であった浮気者男の亡霊に悩まされている。

そこで彼女は友人の美しいジプシー娘ルシアに亡霊を誘惑してもらい、その隙にカンデーラはカルメロと結ばれる。

(Wikipediaより)

音楽の構成

元々はパントマイムでしたが、バレエ化されてフルオーケストラで演奏されます。バレエ版1925年版と呼ばれます。

メゾソプラノは元々「ヒネタリア」の時に本物のフラメンコ歌手が歌うように書かれていました。低い音域で女声の地声で歌うことが出来ます。カサド盤では本物のフラメンコ歌手が歌っています。他のCDでは、普通のメゾソプラノが歌いますが、フラメンコ風に歌っていることも多いです。

霊が登場する場面では、R.シュトラウスのサロメのように、複調が使用され、不気味さを表現しています。ただ、不気味さを強調している演奏が少ないこともあり、筋書きや雰囲気は以下のYouTubeを見たほうが良く分かると思います。

恋は魔術師 (1925年版)

1. 序奏と情景
フラメンコの特徴であるフリギア旋法が使用されています。
2
. 洞窟の中で
オスティナート技法(カノンやシャコンヌの元となった同じ和声進行にの繰り返し)を使用し、不気味な洞窟を描きます。
3
. 悩ましい愛の歌(メゾソプラノ)
カンテ・ホンド(深い歌)というフラメンコの歌の様式です。『恋は魔術師』ではメゾソプラノがフラメンコ風に歌います。

4. 亡霊
「恐怖の踊り」の前奏にあたり、複調が用いられて不気味さを表現しています。
5
. 恐怖の踊り
カンデーラが亡霊に追い回される場面の戦慄の踊りです。

6
. 魔法の輪:漁師の物語
7
. 真夜中呪文
8
. 火祭りの踊り
悪霊を払うために火祭りの儀式が行われます。

9
. 情景
オーボエがカンテ・ホンドの特徴を持った旋律を演奏します。
10. きつね火の歌(メゾソプラノ)

狐火とは、真夜中に墓地などで現れる火の玉のことです。弦のピチカートはギターを模したものです。

11.パントマイム

序奏の主題が再度演奏されます。オーボエ独奏は、カンテ・ホンドのメリスマを模倣しています。ジプシーの娘ルシアが亡霊を誘惑して連れ出すシーンです。
12.愛の戯れの踊り(メゾソプラノ)

亡霊が居ない隙に、カンデーラとカルメロが踊ります。
13.終曲〜暁の鐘

バレエ映像

YouTubeで見つけたものを貼っておきます。クオリティも高いし、分かり易い素晴らしい映像だと思います。これを観ないと、どの曲が何を意味しているのか、よく分かります。様々な場面で現れる、フラメンコが良いです。

おすすめの名盤レビュー

それでは、ファリャ作曲バレエ『恋は魔術師』名盤をレビューしていきましょう。

カサド=マーラー・チェンバー・オーケストラ

  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感
  • 高音質

超おすすめ:

メゾソプラノマリーナ・エレディア
指揮パブロ・エラス=カサド
演奏マーラー・チェンバー・オーケストラ

2019年4月,バルセロナ (ステレオ/デジタル/セッション)

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カサドはスペイン人の指揮者です。リズム感も持って生まれたスペインのリズムで、スペイン舞曲はお手の物です。オケはマーラー・チェンバー・オーケストラで、技術的にも優れています。録音も非常に新しく、高音質で細かい部分まで伝わってきますスペインとジプシーの音楽が織り交ぜられたこの曲を上手く民族的にまとめ上げています

序曲は、速いテンポでセンス良くリズミカルに演奏されています。「悩ましい愛の歌」は、凄い歌唱です。スペインの民族的な歌唱で、アフリカを感じる位です。歌手のマリーナ・エレディアフラメンコ歌手ですね。「亡霊」は非常にリズミカルで迫力のある演奏です。スペインの亡霊の描き方は、日本とは全然違いますね。「火祭りの踊り」は、民族的を超えて土俗的と言ってもいい位です。悪霊を払う儀式らしい音楽になっています。「きつね火の歌」もフラメンコ歌手のとても民族的な歌唱が楽しめます。「愛の戯れの踊り」は、フラメンコの歌唱が出てきますが、ジプシー風な所もあるのでしょうかね。本物を聴けることと、今まで聴いてきた歌唱と全然違うので驚きです。この演奏から誘惑のシーンを想像するのは難しいかも知れません。終曲はさわやかな朝を告げて終わります。

『恋は魔術師』がファリャの作品の中でも名作であることが良く分かる名演です。バレエの舞台を見たくなってくる演奏ですね。

アルヘンタ=パリ音楽院管弦楽団

スペイン的な情熱溢れる名盤、パリ音楽院管も迫力ある名演
  • 名盤
  • 情熱的
  • ロマンティック
  • スリリング
  • モノラル

超おすすめ:

メゾソプラノアナ・マリア・イリアルテ
指揮アタウルフォ・アルヘンタ
演奏パリ音楽院管弦楽団

1951年 (モノラル/アナログ/セッション)

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夭逝したスペインの名指揮者アルヘンタの演奏です。『恋は魔術師』を得意としており、スイスロマンド管弦楽団、フランス国立放送交響楽団との演奏も残されていいて、いずれもアマゾン・ミュージックにあります。1951年当時、レヴェルも高かったパリ音楽院管弦楽団との録音をレビューしてみます。とてもスペイン的で情熱的な演奏で、カサド盤以上に情熱的です。

序奏は鮮烈で情熱的なリズムで演奏されています。「洞窟の中で」は、おどろおどろしい音楽で、洞窟の様子を表現しています。パリ音楽院管の弦は迫力があります。「悩ましい愛の歌」はスペインらしい熱気を感じる演奏です。メゾソプラノのアナ・マリア・イリアルテは、特にフラメンコ風ではなく普通の歌唱です。ただ音域が低いので太い声で地声に近く、この曲に合っています「恐怖の踊り」は激しい戦慄が感じられます。同時にスペイン風で明るさのある演奏ですけど。「火祭りの踊り」土俗的で燃え上がるようなリズムです。弦の響きは魔術的なものを感じます。「情景」はフルートの音色が素晴らしいです。「きつね火の歌」は太い声で歌っています。速めのテンポで演奏しています。「パントマイム」は、パリ音楽院の色彩的で官能的な弦の音色が素晴らしく、センスの良いポルタメントが聴けます。オーボエのソロが入るとロマンティックになっていきます。「愛の戯れの踊り」は低音の女声とオケの様々な表現で、終盤は激しいリズムとなります。終曲は、一転してさわやかな鐘の音が印象的で、力強く曲を締めます。

他のオケとのディスクですが、フランス国立管弦楽団の演奏は少し粗さがありますがとても情熱的で、メゾソプラノのベルガンサが良いです。パリ音楽院管弦楽団の演奏と双璧ですね。スイス・ロマンド管弦楽団との演奏は、少し品があってスペイン風の情熱が少な目ですね。

マゼール=ベルリン放送交響楽団

魔術的な雰囲気を醸し出した演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感

超おすすめ:

メゾソプラノグレース・バンブリー
指揮ロリン・マゼール
演奏ベルリン放送交響楽団

1965年6月 (ステレオ/アナログ/セッション)

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マゼールとベルリン放送交響楽団はファリャを録音しています。それも1965年録音なので相当若い頃の録音です。しかし、これが意外な名演奏です。恋は魔術師』のストーリーを良く描いていて、エキゾチズムと官能性を感じさせてくれます。スペイン風とかフラメンコとはあまり関係なく、ストレートに本質に迫っています

序曲独特のテンポの演奏です。1960年代ですし、アンセルメ盤の影響は強いでしょうね。「洞窟の中で」は、夜の不気味さと魔術的な雰囲気を盛り上げていきます。この演奏は魔術的な雰囲気を全曲を通して持っています「悩ましい愛の歌」はフラメンコ風の歌唱です。あまりスペインらしさを重視している感じではないですけれど。「恐怖の踊り」は、リズミカルで速いテンポですが、少し不気味さを感じる響きです。舞曲の熱気が恐怖感の戦慄のように感じられます。ベルリン放送響は元々クールさのある音色なので丁度良い雰囲気です。「魔法の輪」は魔術的な雰囲気の中で、落ち着いた演奏です。「火祭りの踊り」は速めのテンポで土俗的でジプシーの雰囲気です。魔術的で良いですね。ダイナミックさもあります。「きつね火の歌」は表情豊かで味わい深さがあります。「パントマイム」は一転、甘美な雰囲気から始まり、段々妖艶になっていきます。こういう妖艶な雰囲気は他の演奏では意外に聴けない表現ですね。「愛の戯れの踊り」亡霊をジプシーの娘が誘惑するという雰囲気が良く出ています。「終曲」はさわやかさと美しさがあります。

かなり名盤だと思うのですが、忘れられてしまった感じですね。古い録音だからでしょうか、勿体ない気がしますけれど。マゼールは最近ファリャの歌劇『はかなき人生』のDVDをリリース(世界初)していて、こちらも名演とのこと。ファリャと相性が良いようです。

デュトワ=モントリオール交響楽団

  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感
  • 高音質

超おすすめ:

メゾソプラノユゲット・トゥランジョー
指揮シャルル・デュトワ
演奏モントリオール交響楽団

1981年7月,モントリオール (ステレオ/アナログ/セッション)

アマゾンUnlimitedとは?

デュトワとモントリオール交響楽団『恋は魔術師』ではバレエの筋書きを良く捉えて、センスの良い表現をしています。モントリオール交響楽団も色彩的で、とても上手いです。スペイン的か?はさておき、この曲のもっともスタンダードな演奏と言える名盤です。スペイン的なリズムはカサド盤が十分再現しています。それとは大分違う方向性です。

序奏はセンス良く、スピーディで色彩的な演奏を繰り広げています。トランペットが上手いです。「洞窟の中で」では、暗い雰囲気を出しています。全体的には色彩的でさらに少し毒々しい所があれば完璧ですが、惜しい所です。「悩ましい愛の歌」色彩的で官能的な部分もありデュカスを聴いているようです。メゾソプラノがフラメンコ風に歌いますが、基本的にベルカント唱法ですね。「恐怖の踊り」目が覚めるようなブリリアントな色彩と速めのテンポで恐怖感を著しています。凄い色彩感で、ファリャのオーケストレーションの進歩を感じます。「火祭りの踊り」はスコアのテンポ通りで、センスの良いリズミカルな演奏です。毒々しさはありませんが、良くまとまった演奏です。「情景」はシャープでブリリアントな表現で、メリハリのある演奏です。「きつね火の歌」はスペイン風ですが、何となくシャンソンをイメージする演奏です。「愛の戯れの踊り」メゾソプラノのユゲット・トゥランジョーの歌唱が良いです。適度にスペイン風で、ジプシー風な歌唱で、オケのほうも色彩感にあふれています。「終曲」は、朝のさわやかさの表現とても爽快です。

アンセルメ=スイス・ロマンド管弦楽団

おすすめ度:

メゾソプラノマリーナ・デ・ガバライン
指揮エルネスト・アンセルメ
演奏スイス・ロマンド管弦楽団

1955年10月 (ステレオ/アナログ/セッション)

アマゾンUnlimitedとは?

アンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団の演奏です。アンセルメは『恋は魔術師』の初演指揮者ではないので、大分様相が違っています。スペイン風に演奏するより、バレエのストーリーを上手く描いています。とはいえ、もう少し魔術的に演奏できないものか、という気もします。カラッとした音響はスペイン的ですけれど、たまに録音の古さを感じさせる所もあります。

序奏遅めのテンポでゲネラル・パウゼが入っています。少し独特な演奏ですね。「洞窟の中で」は、かなり不気味な雰囲気を出してきています。「悩ましい愛の歌」は、丁度よいスペインらしさのあるフラメンコ風の歌唱です。「亡霊」はあまり怖くはなく、最後にアッチェランドする時に少し戦慄を感じます。「火祭りの踊り」遅めのテンポです。悪霊払いの儀式なので、このテンポでもいいかも知れません。エキゾチックな音楽になっていて、さほど不気味さなどは感じないですね。「きつね火の歌」はメゾソプラノのガバラインがセンス良く歌っています。「パントマイム」とても美しい演奏で、チャイコフスキーのバレエを思い出します。「愛の戯れの踊り」ガバラインが少し低い声で歌い、官能的な雰囲気を出しています。オケの演奏もいいですね。「終曲」はさわやかな演奏です。

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楽譜・スコア

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