
アントニン・ドヴォルザーク (Antonin Dvorak,1841-1904)作曲のヴァイオリン協奏曲 イ短調 Op.45 (Violin concerto a-moll Op.45)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。このヴァイオリン協奏曲の魅力は聴けばすぐに分かります。特に有名なメロディはないものの、ドヴォルザークらしい流麗で美しいモチーフのオンパレードで全曲を貫いています。もっと人気があっても良い曲ではないでしょうか。クラシック初心者でも十分楽しめる曲です。
解説
ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲について解説します。
晩年の大作チェロ協奏曲で有名なドヴォルザークですが、ヴァイオリン協奏曲も残しています。
作曲の経緯
ドヴォルザークは、ブラームスの影響を大きく受けた作曲家です。この曲はブラームスと頻繁に共演し、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を初演したことでも知られる名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムのために作曲され、彼に献呈されています。1878年に作曲されました。
ただヨアヒムはあまり気に入らなかったようで、校訂を要求したのみでした。
初演
ヨアヒムは結局この曲は弾きませんでした。初演は1883年にフランティシェク・オンドジーチェクの独奏によりプラハで行われました。その後、ウィーンやロンドンでも初演が行われています。
フランティシェク・オンドジーチェクはチェコのヴァイオリニスト・作曲家で、ロイヤル・フィルハーモニック協会から名誉会友に選ばれた人物です。このドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲の初演者として知られることになりました。また、モーツァルトやブラームスのヴァイオリン協奏曲のカデンツァを書いています。
曲の構成
従来の3楽章形式の協奏曲です。演奏時間は30分程度と短くはないですね。
第1楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ
第2楽章:アダージョ・マ・ノン・トロッポ
第3楽章:フィナーレ、アレグロ・ジョコーソ・マ・ノン・トロッポ
独奏ヴァイオリン
フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×2
ティンパニ
弦5部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ドヴォルザーク作曲ヴァイオリン協奏曲の名盤をレビューしていきましょう。
Vn:ファウスト, ビエロフラーヴェク=プラハ・フィル
ヴァイオリン独奏はイザベル・ファウスト、チェコの名匠ビエロフラーヴェクとプラハ・フィルの伴奏です。2003年録音で音質も良いです。
第1楽章は冒頭は深みを感じるオケの音色が印象的です。ビエロフラーヴェクの落ち着いたテンポの演奏に、イザベル・ファウストのヴァイオリン独奏が入ってきます。ヴァイオリンの音色がとても素晴らしく、ただ親しみやすいメロディというレヴェルではなく、深みと力強さを感じるもので、ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を一段深みを持って聴くことが出来ます。とても味わい深く、浸れる演奏です。イザベル・ファウストはヴィブラートの細かいテクスチャまでこだわって表現しており、それが格調の高さにつながっていると思います。
第2楽章はヴァイオリン独奏にしなやかさが加わり、録音の良さもあって、じっくり聴いていくことが出来ます。他の演奏と異なり、流麗ながらロマンティックさはそこまで強調せず、まるでチェコの自然の中にいるような味わい深さがあります。伴奏も素晴らしく、ビエロフラーヴェクの円熟味のある自然体の表現が味わい深く、プラハ・フィルもホルンなどチェコらしい響きを随所に聴かせてくれます。
第3楽章はそこまで速くはせず、その代わり味わいのある舞曲を聴かせてくれます。イザベル・ファウストの繊細なテクニックを高音質で良く捉えていています。プラハ・フィルもチェコの舞曲らしい清々しくリズミカルな演奏を聴かせてくれます。ヴァイオリンは時にリズミカルに、またある時はしなやかに表現して表情豊かです。技巧的な部分も素晴らしいですが、曲の本質的な良さを追求しています。
メロディのロマンティックが強調されがちなドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲ですが、イザベル・ファウストとビエロフラーヴェクはこの協奏曲に内在する本当の良さを聴かせてくれます。
Vn:五嶋みどり, メータ=ニューヨーク・フィルハーモニック
五嶋みどりとメータ=ニューヨーク・フィルの組み合わせです。五嶋みどりの感情表現が非常にマハった名盤でゆらぎない自信でこの曲を弾き切っており、この曲のスタンダードと呼んでも良い位の名演です。録音は1989年で、五嶋みどりの力強い演奏をしっかり捉えています。
第1楽章から五嶋みどりはドヴォルザークの流麗なメロディに感情を込めた力強い演奏です。五嶋みどりとドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲との相性の良さは抜群です。自然体で盛り上がっていくのが良く分かります。メータとニューヨーク・フィルはしっかりした伴奏で、五嶋みどりも自由に表現できています。ヴァイオリンの音色にはコクがあり、味わいも感じられる位です。
第2楽章も次々に現れるモチーフを落ち着いて自然体で弾き切っています。渋さもある音色で、ベテランのヴァイオリニストの演奏を聴いているかのようです。第3楽章は速めのテンポで、民族的な主題をリズミカルに弾いていきます。ニューヨーク・フィルもリズミカルな伴奏で盛り上げていきます。メータのしっかりしたテンポの中で、五嶋みどりは幅広い表現力を発揮し、ラストは盛り上がって曲を閉じます。
五嶋みどりの若さを感じさせない充実した演奏で、この協奏曲の魅力を十二分に引き出した名盤です。初めてこの曲を聴く方にもお薦めです。
Vn:ヨーゼフ・スーク, アンチェル=チェコ・フィル
チェコの名ヴァイオリニストでドヴォルザークのひ孫にあたるヨゼフ・スークによるヴァイオリン独奏、バックはアンチェルとチェコ・フィルです。チェコの演奏家による重量級の組み合わせで、1960年録音と少し古めで、LPで聴きたいような音質ですが、演奏は文句なしの名演です。
第1楽章はアンチェル時代の力強いチェコ・フィルの演奏で始まり、ヨゼフ・スークの堂に入ったヴァイオリンが見事です。ヴァイオリンもオケもいぶし銀で、まさに古き良き名盤という貫録を感じます。スークのヴァイオリンはロマンティックというより、ヴィブラートが少なめで力強く情熱的です。単に親しみやすいロマンティックな音楽、に陥ることは決してなく、スケールの大きな大曲に聴こえます。
第2楽章はヴァイオリンが渋い音色で味わい深いです。当時のチェコ・フィルの木管がスークの音色に合わせるようにいぶし銀の音色を響かせています。チェコの自然を感じさせ、曲が進むにつれ、情熱をはらんで盛り上がります。終盤のチェコ・フィルの弦の音色は喜びに満ちていて感動的です。チェコの巨匠の共演とは言え、ここまで感動させられるとは思いませんでした。第3楽章はコクのあるヴァイオリンと弦の響きが印象的です。速めのテンポでリズミカルに演奏されています。チェコ・フィルの堂々とした響きも良いですね。後半はチェコ・フィルが重厚な音色でスケール大きく盛り上がります。
音質は聴いていれば慣れてきます。むしろ、いぶし銀のサウンドがとても良いです。さすがチェコの演奏家による歴史的名盤です。
Vn:テツラフ, ストゥールゴールズ=ヘルシンキ・フィル
クリスティアン・テツラフのヴァイオリン独奏とストゥールゴールズとヘルシンキ・フィルの録音です。2015年録音で細かいテクスチャまで伝わってくる高音質です。
第1楽章はオケが小気味良くしっかりしたリズムを聴かせてくれます。テツラフのヴァイオリンは艶やかでキレがある音色です。超絶技巧も積極的にスリリングに聴かせてくれます。ヘルシンキ・フィルも室内オケのように小回りの利いた演奏で、特に木管の音色は素晴らしいです。後半に入るとさらにテツラフの超絶技巧が冴えて力強い演奏となり、オケの弦の響きは、ヘルシンキ・フィルらしく民族的で一体感があって素晴らしいです。
第2楽章はヴァイオリン独奏が感情を込めて主題を弾いていきます。とてもロマンティックさのある演奏です。ホルンとの絡みは強いアクセントをつけ、とても情熱的です。ヘルシンキ・フィルの民族的な響きの中で、テツラフは強い感情を入れて、シャープな演奏を繰り広げています。第3楽章は速いテンポで、テツラフの小気味良く、表情豊かな演奏が良いです。オケの方もテツラフと息の合ったクオリティの高いアンサンブルです。テツラフはアクセントやビブラートを自在にコントロールして表現のボキャブラリーがとても多いです。ラストは情熱的かつスリリングに盛り上がって曲を締めます。
この演奏も非常にレヴェルが高いので、新しい高音質で聴きたい場合は、とてもお薦めです。ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲はレヴェルの高い名盤が多いですね。
Vn:ユリア・フィッシャー, ジンマン=チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
ユリア・フィッシャーのヴァイオリン独奏とジンマン⁼チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の録音です。録音は2012年と新しく、ヴァイオリン独奏からオケのスケールの大きな響きまで立体的にしっかり捉えています。
第1楽章はジンマン⁼チューリヒ・トーンハレ管の落ち着いた演奏から始まります。ユリア・フィッシャーは情熱的な演奏を聴かせてくれます。超絶技巧も聴きごたえがあります。しなやかで軽妙な演奏を聴かせてくれます。一方、オケはスケールが大きく懐の深い演奏です。
第2楽章は落ち着いたゆったりとした演奏です。ホルンとの絡みはフィッシャーの情熱と、遠くまで響き渡る様なホルンの響きで良いと思います。弦のトゥッティは清々しく、チェコの自然を力を抜いて描き出しています。第3楽章のヴァイオリンは小気味良い演奏でリズミカルに始まります。中間のチェコ風のメロディは愁いを備えつつ、軽妙に聴かせてくれます。ラストはスケール感のある盛り上がりで曲を締めます。
演奏は全体としてドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲と聞いて思い描く、スタンダードな演奏です。技術的なクオリティが高い名盤です。
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
Vn:ユリア・フィッシャー, ジンマン=チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
ユリア・フィッシャーのヴァイオリン独奏、ジンマンとチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の映像です。2014年の収録でとても高画質です。ブロムスの演奏で、音質も良いです。
演奏はCDと同じ方向性ですが、ライヴなのでユリア・フィッシャーもとても情熱的な演奏を繰り広げています。ジンマンのテンポ設定はCDと変わらずですが、オケの方も熱気をはらんだ演奏で、セッション録音とは大分違って聴こえます。ただアンサンブルのクオリティはCDと変わらないと思います。
ユリア・フィッシャーのヴァイオリン演奏を中心にしたカメラワークで、ヴァイオリンの弾き方を良く見たい方にはとてもお薦めです。
Vn:リサ・バティアシュヴィリ, セガン=ベルリン・フィル
ヴァイオリン独奏はリサ・バティアシュヴィリ、ネゼ=セガンとベルリン・フィルという豪華な組み合わせです。
リサ・バティアシュヴィリはこのドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲をレパートリーにしていますが、まだ公式なセッション録音は無いようです。
このBlu-Rayはヴァルトビューネ・コンサートなので野外ではありますが、録音も良く、アンサンブルのクオリティが高いです。リサ・バティアシュヴィリの演奏をベルリン・フィルの伴奏で聴ける贅沢さを感じます。バティアシュヴィリは鮮やかな超絶技巧、民族的なしなやかな表現など、表現力が多彩です。
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楽譜・スコア
ドヴォルザーク作曲のヴァイオリン協奏曲の楽譜・スコアを挙げていきます。