中国の不思議な役人(バルトーク)

ベーラ・バルトーク (Bela Bartok,1881-1945)作曲のバレエ『中国の不思議な役人』 (The Miraculous Mandarin)について、解説おすすめの名盤レビューをしていき、最後にスコアも紹介します。

『中国の不思議な役人』はバルトーク最大の問題作です。内容も確かに倫理的に問題作なのですが、今の時代でも注目される曲です。近年はバレエの舞台の断片がYouTubeによく出るようになってきました。日本では、吹奏楽で有名になりました。

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解説

バルトーク中国の不思議な役人について解説します。

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パントマイムのための音楽

『中国の不思議な役人』は1幕のパントマイムのための作品です。よくバレエ音楽と言われますが、バレエでなくてパントマイムです。

ただし、その後、バレエ化されて上演されたため、バレエ音楽と言われることも多いです。その後も度々上演されています。

台本に問題あり!

さらに『中国の不思議な役人』は、もともと中国の人形などを見て、想像した勝手な印象なのです。そして、その台本は売春宿を舞台とした裏社会で、”中国の役人”は何度刺されても蘇ってきて女性に抱き着くのです。

さすがに中国に対する偏見ですね。差別と言われても仕方ない内容です。まあ中国人がこの悪役を引き受けたおかげで、バルトーク最大の問題作が世に出たとも言えますけれど。

しかし初演に際して、こんな内容を上演してくれる劇場がありません。ブダペストの歌劇場に断られて、ドイツのケルンで1926年に上演されました。1926年といえば、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間のちょうど平穏な時期ですね。

意外に人気曲

少なくとも日本では『中国の不思議な役人』は一定の人気があります。それは吹奏楽で良く演奏されるからです。問題作であることろが興味深いし、リズムが複雑であるため演奏者のチャレンジ精神に火をつけるのです。吹奏楽で弦楽器がなくても、そこそこの演奏ができます。というか、若者たちが勢いに任せて演奏している、という感じでしょうね。でも、売春宿で、、という内容を知れば、あんまり若い人の教育には良くなさそうですね、笑。

筆者も吹奏楽出身で、高校時代に良く聴きました。当時も問題作だとは思いましたが、興味深く聴いていました。教育にどうこう、ということは感じなかったので、この点は聴く側の話でしょうね。

当の中国人はどう思っているのでしょう?別に中国人をディスるための作品ではなく、作者のインスピレーションから生まれたストーリーなのですが、中国お得意のハニートラップとかありますけど、この内容はさすがになんとも言い難いですね。

バルトークのハンガリー人ですが、ハンガリーはマジャール系の人が8割です。中国からは遠いですが、ドイツやチェコなど白人主体の国と比べると、音楽的にもジプシーの影響が強く、東洋的な部分にアイデンティティがあり、むしろ中国に親近感を持っていたのでは、と想像できます。

近年、意外によく上演されるバレエ版

YouTubeを探してみると、随分たくさんの映像が出ていますね。ベジャール版もあります。もともと非道徳的なところがあるので問題作なのですが、売春宿とはいえ、男女関係を描いた作品ではあります。

刺しても刺しても起き上がって襲ってくるというイメージが凄いですね、汗。なんて言ったらいいんでしょう?ストーカーを大幅に超えたグロテスクさを感じます。それから、女性が男性を切りつけて殺してもまだ求めてくるのですから、SMチックな異常さもあるのではないかと、汗。(ホントに書きにくいなぁ)

『春の祭典』と同様、振付家のインスピレーションを刺激する作品であることは間違いないですね。

それを考えると、性に関する言葉にしにくい色々な要素を含んでいるのかな、と思います。

おすすめの名盤レビュー

『中国の不思議や役人』おすすめの名盤をレビューしていきます。

ショルティ=ロンドン交響楽団 (組曲)

最初から最後まで凄いテンション!
  • 名盤
  • 定番
  • 白熱
  • スリリング
  • マッシヴ
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ゲオルグ・ショルティ
演奏ロンドン交響楽団

1963年12月,ロンドン (ステレオ/アナログ/ライヴ)

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ショルティとロンドン交響楽団の1963年の録音です。ショルティは晩年まで激しいリズムと、マッシヴ(筋肉質)でダイナミックな名盤を残していますが、この頃のショルティは白熱した名盤が多く、ワーグナーなども名演です。オケはロンドン交響楽団で、イギリスのオケの中ではダイナミックな実力を持つオケです。

冒頭からロンドン響のダイナミックな弦が荒れ狂います。金管も迫力があります。ショルティは速めのスリリングなテンポ取りで白熱した密度の濃い音楽を繰り広げます。ロンドン響は重厚さもあり、立体的に響きます。弱音になると異様な雰囲気が出ていますが、常に熱気を秘めています。トローンボーンのダイナミックで、とても上手いです。凄い集中力でそのまま最後まで演奏しきっています。

妖艶な表情も上手くつけられていて、もう少し新しい録音であれば色彩感が楽しめたと思いますが、アンサンブルのクオリティの高さを感じます。1963年の録音としては、この白熱した中で驚異的なクオリティかも知れません。

ロンドン響の『中国の不思議な役人』は、アバドの名盤が君臨しているのですが、迫力ではショルティ盤が上ですね。組曲ではトップを争う名盤です。カップリングの『管弦楽のための協奏曲』も緊張感のある名演です。

アバド=ロンドン交響楽団 (全曲)

力強いダイナミックでシャープな名演!
  • 名盤
  • 定番
  • 爆演
  • スリリング
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮クラウディオ・アバド
演奏ロンドン交響楽団
合唱アンブロジアン・シンガーズ

1982年10月,ロンドン,キングズウェイ・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

アバド=ロンドン交響楽団は、ちょうどこのコンビのピークにあたります。アバドの『中国の不思議な役人』に対するインスピレーションの鋭さがダイレクトに伝わって来ます。シャープで切れ味の良い指揮といい、ロンドン交響楽団のパワーとテクニックと言い、本当に素晴らしいです。

最初の弦の速いパッセージで、曲に引き込まれます。ロンドン交響楽団の重厚で筋肉質なサウンドもこの曲に合っています。アバドはここぞというときにアッチェランドを思い切りかけてたたみ込み緊張感を高めます。もともとこの曲にはずっと緊張の糸が張りつめている感じですけれど。

また、オーケストレーションの凄さがリアルに再現されています。アバドのインスピレーションが強く、オーケストレーションの凄さが、そのまま緊張感や迫力に繋がっています。セッション録音で調整が良くされているのは、この頃のアバドの特徴です。良し悪しはあると思いますが、本来なら聴こえにくいパートが聴こえてきたりして新鮮です。

この曲は、あんまり細かく聴くよりは、こうやってハイテクニックなところを楽しむほうが健全ですね。もちろん、パントマイムですから解説書を読みながら聴けば、筋書きもよく理解できます。

アバドの演奏は名盤であるとともに、メリハリがはっきりしていて理解し易い演奏なので、最初の一枚にとても良いと思います。現状、新品が少なく残念ですが再販売してほしい名盤です。『中国の不思議な役人』を理解したいなら、中古でも良いので聴くべきディスクです。

ブレーズ=シカゴ交響楽団 (全曲)

クオリティの高さとダイナミックさを両立した名盤
  • 名盤
  • 定番
  • クオリティ
  • スリリング
  • ダイナミック
  • 高音質

超おすすめ:

指揮ピエール・ブーレーズ
演奏シカゴ交響楽団

1994年12月,シカゴ (ステレオ/デジタル/セッション)

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ブレーズとシカゴ交響楽団の録音です。録音の音質は非常によく残響も適切です。シカゴ響のブラスの強力さも発揮されていますし、アンサンブルのクオリティの高さは随一です。それで居ながら結構迫力もあります。

冒頭は速いテンポでスリリングに始まります。ブレーズの2回目の録音としては切れ味が鋭い演奏です。当然、ブレーズの持ち味であるクオリティの高い精妙なアンサンブルも最大限に発揮されています。

緊張感でスリリングに攻めていくタイプの音楽作りとは違いますが、そういった演奏はショルティ盤、アバド盤、小澤盤など多くありますので、ブレーズ盤は新鮮です。グロテスクさなど演出は最小限にして「楽譜に語らせる」演奏を展開しています。シカゴ交響楽団のソロのレヴェルの高さ、アンサンブルのクオリティもこの演奏を非常にレヴェルの高いものにしています。

ブレーズ2回目の録音は、曲によって評価が分かれますが『中国の不思議な役人』はとても良い面が出ています。現時点で最もクオリティが高い名盤だと思います。

サロネン=フィルハーモニア管弦楽団 (全曲)

ダイナミックさもあるが知的で本質を表現
  • 名盤
  • 定番
  • 知的
  • シャープ
  • ダイナミック
  • ライヴ

おすすめ度:

指揮エサ=ペッカ・サロネン
演奏フィルハーモニア管弦楽団
合唱フィルハーモニア・ヴォイセズ

2011年1月27日 ロンドン,ロイヤル・フェスティヴァル・ホール (ステレオ/デジタル/ライヴ)

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サロネンとフィルハーモニア管弦楽団のライヴ録音です。ライヴですが音質はとても良く演奏のクオリティも高いです。

冒頭ライヴならではの熱気と迫力があります。ダイナミックさとシャープさは若い頃のサロネンを思い出します。

また単に暴力的なグロテスクさを前面に出すより、スコアを深く読みこんでバルトークが埋め込んだ美しい色彩感を再現しているところが凄いです。なるほど、こんなに素晴らしいオーケストレーションで色彩感があるのだな、と再発見させられます。

曲が進むにつれて、深みと盛り上がりが増していき、ライヴならではの熱気が緊迫感をはらんで増していきます。精緻な音楽を過不足なく表現しつつ、曲の持っているエネルギーを自然に引き出しています。終盤は凄く速いテンポで圧倒的なクライマックスを迎えます。

コンサート会場に居たらさぞ圧倒的だっただろうと思います。もちろんCDで聴いてもトップを争う名盤です。

小澤征爾=ボストン交響楽団 (全曲)

強いインスピレーションに貫かれたシャープな名演!
  • 名盤
  • 定番
  • 白熱
  • 透明感
  • シャープ
  • スリリング
  • 高音質

おすすめ度:

指揮小澤征爾
演奏ボストン交響楽団
合唱タングルウッド祝祭合唱団

1994年2月,3月:ボストン,シンフォニー・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

小澤征爾もシャープな演奏を繰り広げています。アジア人の小澤征爾が指揮するというのは、なんだか不思議な感じがします。しかも生まれは満州の奉天ですからね。しかし、緊張感があり、インスピレーションに溢れています。セッション録音ですが、ライヴ以上のスリリングさとクオリティを持った名盤です。

ボストン交響楽団もシャープですが、少し透明感を持ったサウンドで、アバドとはまた違った響きで楽しめる演奏だと思います。透明感のあるクールな響きで、グロテスクな和音も非常に色彩的です。小澤征爾の耳の良さには舌を巻きます。

また、ボストン交響楽団の金管の上手さも特筆すべきで、しなやかでクオリティが高い演奏を繰り広げています。アメリカの金管のレヴェルの高さが良く出ています。木管もクラリネットを中心に艶やかな音色です。丁寧でクオリティの高いアンサンブルも魅力です。

アバド盤と違い、録音が自然で、音質も透明感が高いです。ボストン交響楽団が実力を発揮しきっていて、小澤=ボストン響の多くのディスクの中でも、特別な名盤です。

「中国の不思議な役人」の映像(DVD)

『中国の不思議な役人』のバレエ版の映像をレビューしていきます。聴くにしても、吹奏楽などで演奏するにしても、どんな舞台なのか知らないと逆に想像が膨らみ過ぎてしまうかも知れません。一つはバレエの舞台を見ておくべきだと思います。

モスクワ・バレエ

『中国の不思議な役人』の貴重なバレエ映像
  • 個性的名演
  • 衣装が良い

おすすめ度:

モスクワ・バレエ

ニジンスキー復刻版が出る前は、唯一の「春の祭典」のバレエでした。振付はコンテンポラリーダンスとも何とも言えないB級なものですけれど。

「中国の不思議な役人」もB級ですが、結構面白いと思います。YouTubeにアップされている中でもレヴェルの高い上演がありますけど、その中で比べると上位に来そうです。何より「中国の役人」が、それっぽい衣装なのです。清の時代の弁髪で、キン肉マンのラーメンマンを思い出します。さらに刃物を使ったり、何故かピストルだったりと、なかなか凝っています。

あまりシリアスすぎるとバレエというより、やばいサスペンス風になってしまうので、ある意味ちょうど良いバランスと思います。

サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011

  • 名盤
  • 定番
  • ライヴ録音

おすすめ度:

サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011
収録:2011年

ベジャール・バレエ

YouTubeでベジャール版を発見しました。上演自体は沢山されているようですね。ベジャールは20世紀後半に最も人気のあったロシアの振付師の一人で、自身のバレエ団を率いて新しい振付を多く上演しました。

あまり「中国の役人」を強調した演出はなく、この人民服風の役人が一番中国的かも知れません。もっともバルトークが作曲した当時は中華民国ですが、多分イメージは清王朝末期なので役人は弁髪だったと思います。けれど、振付した時期は中華人民共和国ですね。

中国の不思議な役人(パルコ劇場:舞台)

  • 名盤
  • 定番
  • ライヴ録音

中国の不思議な役人(パルコ劇場:舞台)

よく分かりませんが、劇でしょうか?バレエも入っているような気がします。以下のYouTubeが紹介動画です。「言葉の錬金術師、寺山修司の愛と死と再生の物語」とのこと。

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楽譜・スコア

バルトーク作曲の中国の不思議な役人の楽譜・スコアを挙げていきます。

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