
カール・マリア・フォン・ウェーバー (Carl Maria von Weber,1786-1826)作曲の歌劇『魔弾の射手』(Der Freischuts)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
ウェーバーの歌劇『魔弾の射手』について解説します。
ドイツオペラの基礎を固める
歌劇『魔弾の射手』はウェーバーの代表作となる全三幕からなるオペラです。ウェーバーのオペラ、とりわけこの『魔弾の射手』はロマン派オペラの出発点であり、モーツァルトら先人から受け継いだ内容を大きく発展させ、この後のワーグナーを中心とするドイツのオペラ界に大きな影響を与えました。
ドイツ風のオペラの序曲
序曲は古典派に比べてスケールも大きくなり、ロマンティックな序曲の形態を確立しています。しばらくしてホルンに出てくるコラール風の旋律は有名ですが、これは実際にあとから歌詞が追加されて、讃美歌『主よ、御手もて』となっています。オペラが讃美歌を引用することは多いですが、逆は珍しいですね。
ウェーバーはホルン、クラリネットなどの管楽器を効果的に生かしたオーケストレーションを駆使しています。そしてドイツの深い森を思わせるスケールの大きさやドラマティックな効果を生み出しています。オペラの内容の主なモチーフを巧みに織り交ぜ、オペラを集約したような序曲になっています。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ウェーバー作曲歌劇『魔弾の射手』の名盤をレビューしていきましょう。
カルロス・クライバー=シュターツカペレ・ドレスデン
カルロス・クライバーとシュターツカペレ・ドレスデンの演奏が定番です。1973年の録音ですが、しっかりした録音です。
シュターツカペレ・ドレスデンは当時東ドイツのオペラハウスで、いぶし銀の音色で有名でした。カルロス・クライバーはシュターツカペレ・ドレスデンのドイツ的な良さを活かしながらも、熱気のある鋭い感情表現で燃え上がるような響きを引き出しています。ホルンの響きはいぶし銀で素晴らしいです。テンポは速めですが、単に速いだけでは無く躍動感が凄いです。熱気のある演奏ですが、所々奥深さもあり、C.クライバーの表現の多彩さにも舌を巻きます。
『狩人の合唱』は、荒々しいホルンに導かれて、生気に満ちた力強い合唱が楽しめます。まさにドイツ・オペラですね。オケも白熱しています。
全曲盤ですが、序曲のみが目的の方も聴いてほしい名盤です。
カイベルト=シュターツカペレ・ドレスデン
ドイツ的な指揮で有名なヨーゼフ・カイベルトとベルリン・フィルの名盤です。カイベルトはNHK交響楽団にも客演したことがありますが、日本ではあまり有名ではないかも知れません。この『魔弾の射手』はドイツらしいしっかりした演奏をするカイベルトの良さが活きているうえに、白熱したスリリングさもある名盤です。録音は1958年ですが、リマスタリングにより音質が大幅に良くなりました。1970年代の演奏、と言われても分からない位、クオリティの高い音質になっています。
序曲はまさに古き良きドイツの構築力のある演奏です。それに加えて、凄い熱気があり、C.クライバーを思わせるようなスリリングさも兼ね備えています。ホルンの響きは硬質でドイツ的です。弦も基本的にドイツ的な硬派な響きですが、曲が進むにつれて白熱してきて、ベルリン・フィルの地力もあって圧倒的とも言える迫力です。
第1幕に入ると、歌手陣のレヴェルも高く、特にソプラノはしなやかで透明感のある歌声を披露してくれます。
ドイツの伝統的な『魔弾の射手』を聴きたい人に相応しい名盤です。
マタチッチとNHK交響楽団のディスクです。ライヴ録音ですが、なかなか良い演奏です。当時のN響としては金管など、管楽器も含めてレヴェルが高く、全体としても重心が低く、マッシヴなNHK交響楽団の特徴が良い方向に活かされています。
マタチッチはダイナミックにN響を引っ張っています。それにN響も良く応えていて、力強く密度の濃い演奏になっています。弦セクションはもともとレヴェルが高いですし、金管も音を外すことは無く、1969年のスタジオ録音よりも良い演奏だと思います。
オペラDVD
歌劇『魔弾の射手』はドイツ・オペラで上演回数も多いです。いくつかDVDやブルーレイが発売されています。
アーノンクール=チューリヒ歌劇場 (1999年)
アーノンクールとチューリヒ歌劇場の上演です。日本語解説、日本語字幕付きのDVDです。
序曲の演奏は、基本的にドイツロマン派風です。アーノンクールのウェーバーに関してピリオド奏法風の表現はそれほどありませんが、テンポが速めで、スリリングです。
舞台はベルクハウスによるモダンな演出です。時代の先端を行くチューリヒ歌劇場らしいですね。とはいえもう20年も経っている訳で、それ程先端的な感じはしません。とはいえアーノンクールの指揮でチューリヒ歌劇場と来れば、かなりモダンで見ごたえのある舞台ですね。クオリティの高い舞台であることは間違いないです。
日本語字幕で、日本語解説もしっかりしているので、初めてこのオペラを観る人にも分かり易いです。1999年収録で画質は悪くありません。画質は日進月歩なので高画質とまでは言えませんが、十分なものです。
ティーレマン=ドレスデン国立歌劇場 (2015年)
ティーレマンとドレスデン・シュターツカペレによる最新の映像です。日本語字幕付きです。演出は、モダンなもので、第2次世界大戦あたりの情景を持ってきています。面白い演出ですが、初心者向けではないかも知れません。でも、この歌劇の名演を残してきたドレスデン国立歌劇場の上演であり、レヴェルは高いです。
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楽譜・スコア
ウェーバー作曲の歌劇『魔弾の射手』の楽譜・スコアを挙げていきます。