ワーグナー 歌劇『タンホイザー』 名盤レビュー

リヒャルト・ワーグナー (Richard Wagner,1813-1883)作曲の歌劇『タンホイザー』(Tannhauser)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

有名なメロディのオンパレードでオペラで全曲観ても飽きない作品です。とりわけ、タンホイザー序曲は有名なメロディの半分くらいは集約されていて聴きごたえがあります。アマチュアオーケストラでも良く取り上げられますが、最後のシーンがとても難しく、正直ちゃんと演奏するのは困難ですね。しかし、世界のトップオケの演奏はとても素晴らしく感心してしまいます。

 

解説

 ワーグナー歌劇『タンホイザー』について解説します。

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『タンホイザー』はワーグナー2作目の歌劇です。その前の第1作目である歌劇『リエンツィ』は、1842年10月20日にドレスデン宮廷劇場で初演されましたが、大成功でした。

その成功を目の当たりにしたワーグナーはすぐに第2作目の歌劇『タンホイザー』を作曲し、1845年4月13日に完成しました。同じドレスデン宮廷劇場で1845年10月19日に初演されました。前作ほどではありませんでしたが、初演は成功し、ワーグナーはオペラ作曲家としての地位を確固たるものとします。

歌劇『タンホイザー』は、ワーグナーが15歳ごろの時に読んだホフマンの「ワルトブルグ城の歌合戦」ティークの「忠実なエッカルドとタンホイザー」などの伝説に素材を求めています。台本はワーグナー自らが書きました。

筋書き

歌劇『タンホイザー』は全3幕で構成され、13世紀初頭のアイゼナッハのワルトブルク城を舞台に、ミンネゼンカー(吟遊詩人)のタンホイザーと、彼を愛する領主の姪エリーザベトとの悲恋を扱ったもので、愛の神ヴェーヌスの誘惑から脱しきれず悩むタンホイザーの葛藤を浮き彫りにしながら、霊と肉との激しい闘争を描いています。

今では歌劇『タンホイザー』は、ワーグナーの代表作の一つとして数えられ、全曲聴いても次々に有名なメロディが出てきて飽きない作品です。もっとも全曲だと全3幕ですから気軽には聴けませんが。

一番有名なのは『タンホイザー』序曲で、単独で演奏される機会も多く、人気があります。「巡礼の合唱」のモチーフは『タンホイザー』序曲の中でも使われています。

巡礼の合唱も有名です。

大行進曲も有名ですね。

大行進曲

おすすめの名盤レビュー

まずは歌劇『タンホイザー』序曲・抜粋などの名盤をレビューしていきます。といっても、率直に言ってここで取り上げたショルティ盤、シノポリ盤、テンシュテット盤はすべて非常にハイレヴェルなので、どれを買っても後悔することは無いと思います。しかも、いずれも個性的でそれぞれの良さがあり、全部★6つにしたい位です。

テンシュテット=ロンドン・フィル (1992年)

復活したテンシュテットとロンドン・フィルの白熱した熱演!
  • 名盤
  • 定番
  • 官能的
  • 白熱
  • ダイナミック
  • ライヴ

超おすすめ:

指揮クラウス・テンシュテット
演奏ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

1992年8月20日,ロイヤル・アルバート・ホール (ステレオ/デジタル/ライヴ)

曲目
  1. 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第1幕の前奏曲
  2. 「リエンツィ」序曲
  3. 「神々の黄昏」~夜明けとジークフリートのラインへの旅
  4. 「神々の黄昏」~ジークフリートの葬送行進曲
  5. 「ワルキューレ」~“ワルキューレの騎行”[コンサート・ヴァージョン]
  6. 「タンホイザー」~序曲とヴェーヌスベルクの音楽

 テンシュテットはロンドン・フィルとも凄い演奏を残しています。本来ロンドンフィルよりもベルリンフィルのほうが技術的に圧倒的にダイナミックなはずです。ですが、この『タンホイザー』序曲は病気復活後のテンシュテット=ロンドン・フィルの白熱した演奏で、まさに圧倒的な名演となっています。

またロンドンフィルはテンシュテットの手兵であるため、テンシュテットの音楽をよく理解していて、ただダイナミックなだけではなく、渋い表現をしていますね。

このコンビの『タンホイザー』序曲は、この時期のテンシュテット独自のうねるような熱気と、凝集された白熱の音楽となっています。細かいニュアンスは官能的な部分も併せ持っています。録音の音質も良く、木管や弦のソロなど微妙な表現を良く捕えています。ただ、ライヴだからか少し金管が音を外していますね。

パリ版なので、後半は大分違っていて、全部で25分程度にまとめられています。

ショルティ=シカゴ交響楽団

シカゴ響がダイナミックに白熱!
  • 名盤
  • 定番
  • スケール感
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ゲオルグ・ショルティ
演奏シカゴ交響楽団

1972年-1985年 (ステレオ/デジタル/セッション)

ショルティと手兵のシカゴ交響楽団との演奏です。熱しやすい演奏です。テンポは最初はスケールを感じる遅さですが、後半は急激なアッチェランドが何度も繰り返され、癖になる演奏です。

ショルティが白熱したアッチェランドをしても、シカゴ響の演奏は一切崩れない所はさすがです。シカゴ響はアンサンブルのクオリティが凄いです。弦は厚みがあり、金管楽器の迫力が素晴らしく、圧倒的なスケールの大きさです。

カラヤン=ウィーン・フィル (1987年)

カラヤン晩年の円熟と深みを感じる名演!
  • 名盤
  • 定番
  • ライヴ
  • 重厚

超おすすめ:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1987年8月15日,ザルツブルク,祝祭大劇場 (ステレオ/デジタル/ライヴ)

カラヤン晩年の1987年のザルツブルグでのライヴです。遅めのテンポで非常にスケールの大きな演奏になっています。カラヤン、晩年の演奏の美学を表現しています。その金管も最後の盛り上がりでは十分素晴らしい演奏を聴かせてくれます。

オーケストラ全体として、あるいはホールを含めても、磨き抜かれたカラヤンらしいサウンドです。全盛期ほどのレガートは姿を潜め、黄金の、というよりシルバー色の響きがあり、少し神々しさも感じる位です。

カラヤン晩年の境地という所ですが、ダイナミックさが無くならないのがカラヤンらしいです。言葉では表現しにくいのですが、妖艶な部分も感じます。タンホイザーだから、というのもあると思いますけれど。少し遅いテンポの中でウィーンフィルも自由に演奏していますし、カラヤン晩年の演奏の中でも深みを感じる演奏です。ラストの迫力は壮絶で、カラヤンの気迫を感じます。

円熟が表現の深みを増したため、様々な表現のヴォキャブラリーがあり、聴き終わってとても充実感のある演奏です。

シノポリ=フィルハーモニア管弦楽団 (1988年)

  • 名盤
  • 熱演
  • 官能的
  • スリリング
  • ダイナミック

おすすめ度:

プラシド・ドミンゴ
合唱コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス合唱団
指揮ジュゼッペ・シノポリ
演奏フィルハーモニア管弦楽団

1988年 (ステレオ/デジタル/セッション)

シノポリバイロイトで『タンホイザー』を上演するなど、とても得意としています。全編が白熱しているといってもいいくらい、情熱的で激しい音楽作りです。これはコヴェントガーデンでの上演から抜粋したのか、もともと抜粋用に録音したのか分かりませんが、パッションに溢れた演奏はバイロイトと変わりません。

序曲は、最初のうちは、比較的おちついて巡礼の合唱のモチーフを演奏しています。さまざまなモチーフが出てきますが、前半は割と落ち着いています。トロンボーンが主題を吹くところまでは、スケールは大きいですが、まだまだ落ち着いています。後半もあと1/3位の所から徐々にダイナミックに盛り上がり、『タンホイザー』の世界に連れていかれます。音色の艶めかしさがあり、タンホイザーのオペラが今にも始まりそうな異様な熱気につつまれていきます。序曲の最後まで行かず、このディスクの場合、そのまま第1幕に入っていきます。

『タンホイザー』の場合、オペラの部分に入ってもダイナミックな音楽が多く、とても楽しめるディスクだと思います。

ショルティ=ウィーン・フィル (1961年)

タンホイザー序曲の急激な盛りあがりは圧巻
  • 名盤
  • 白熱
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ゲオルグ・ショルティ
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1961年 (ステレオ/アナログ/セッション)

ショルティ=ウィーンフィルは圧倒的名演です。スケールの大きな演奏を繰り広げています。基本的にはショルティのマッシヴなダイナミックなリズムが根底にあります。

テンポは遅めで特に最初はかなり遅く始まります。その後、様々なモチーフが登場するにつれ、テンポも急激にアッチェランドしていきます。テンポ設定はかなり自由自在です。ショルティの熱しやすい性格が良い方向に出ています。

ウィーンフィルも白熱の演奏で、かなりの迫力を出しています。最後はかなり速いテンポで圧倒的な迫力で本当に白熱した演奏はこれの事をいうんだなと思います。弦楽器はこのテンポでちゃんと弾けているのだから凄いですね。

バレンボイム=シカゴ交響楽団 (1994年)

スケールが大きく白熱したダイナミックさ
  • 名盤
  • 定番
  • スケール感
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ダニエル・バレンボイム
演奏シカゴ交響楽団

1994年 (ステレオ/デジタル/セッション)

バレンボイムとシカゴ交響楽団の演奏です。ワーグナー指揮者として現在オペラで活躍しているバレンボイムの録音です。ショルティとの違いは、バレンボイムはそこまで熱しやすくないことです。そこまで急激にアッチェランドしたりはせず、スケールの大きさを維持したままダイナミックな演奏を繰り広げています。

前半~中盤までは基本的に遅めのテンポでスケールの大きな演奏を繰り広げています。後半の盛り上がりは凄いです。シカゴ響のタンホイザーのダイナミックさは半端じゃないですね。タンホイザーの後半はこういう演奏であってほしい、というのが完璧に再現されている上に、腰が抜ける位、弦は超絶技巧を披露し、金管は圧倒的にダイナミックです。

バレンボイムはパリ管との演奏もありますが、どちらも善し悪しがあって曲によって大分違います。シカゴ交響楽団との録音は、『タンホイザー』序曲が一番いいと思います。

テンシュテット=ベルリン・フィル

  • 名盤
  • 白熱
  • ダイナミック
  • スケール

おすすめ度:

指揮クラウス・テンシュテット
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1982年-1983年 (ステレオ/デジタル/セッション)

テンシュテットとベルリン・フィルの演奏を始めて聴いたときは、本当に驚きました。この圧倒的なダイナミックさは、技術的にはロンドン・フィルがいくら頑張っても追いつけそうにないですが、上述のライヴは物凄い白熱ぶりでどちらが凄いとも簡単には言えませんね。前述したようにロンドン・フィルはテンシュテットの手兵なので絶妙なニュアンスで、テンシュテットの音楽を再現しています。このベルリンフィル盤は、曲によっては、例えば『リング』などは歴史的にもクナッパーツブッシュ以来の素晴らしい演奏だと思います。

さて『タンホイザー』序曲は、スケールの大きな演奏で、余裕と風格を感じます。ロンドン・フィルのように密度の濃い演奏では無く、外に向かっていくスケールですね。トロンボーンのメロディの個所も風格を感じます。後半に入るとかなり熱してきて、クラのソロの頃にはテンシュテットらしい白熱した演奏になっていきます。

こちらはパリ版ではないので、一般的なタンホイザー序曲になっています。後半、盛り上がってくるとベルリンフィルの鬼のようなアンサンブルが聴けます。熱く白熱していますが、音を外すことはないですし、それにしても凄い構築力です。

ロンドン・フィルがいいか、ベルリン・フィルがいいか、凄く難しい問題です。曲によっても大分違うんです。今回はロンドン・フィルに軍配を上げておきたいと思います。テンシュテットのファンの方は両方持っておいたほうがいいと思います。

オペラ映像(DVD,ブルーレイ)

歌劇『タンホイザー』のBlueRay/DVDをレビューします。ワーグナーの歌劇の中では歌劇『ローエングリン』と並んで親しみやすい歌劇です。ワーグナーを始めてみる方にもお薦めです。

シノポリ=バイロイト祝祭劇場 (1989年)

  • 名盤
  • 定番
  • 官能的
  • 白熱
  • スリリング
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ジュゼッペ・シノポリ
演奏バイロイト祝祭劇場管弦楽団&合唱団

1989年,バイロイト

シノポリのバイロイト音楽祭の上演は、非常に集中力が高く密度の濃い名舞台です。まずシノポリの音楽で緊張の糸が途切れることは無く、それだけでも退屈しません。オペラの物語も『タンホイザー』はワーグナーらしくてとても面白いです。そこかしこに聴いたことがあるモチーフが出てきます。

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楽譜

ワーグナー作曲の歌劇『タンホイザー』の楽譜・スコアを挙げていきます。

ミニチュアスコアとIMSLPどっちが得?

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