
ニコライ・リムスキー=コルサコフ (Nikolai Rimsky-Korsakov,1844-1908)作曲の『スペイン奇想曲』 Op.34 (Capriccio Espagnol Op.34)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。色彩的で非常に人気のある曲で、特に吹奏楽でよく演奏されます。
解説
リムスキー=コルサコフのスペイン奇想曲について解説します。
作曲と初演
1887年に作曲されました。リムスキー=コルサコフは海軍に入隊し18歳のころ遠洋航海を経験しています。この時の体験を元に、地中海からアラビアなどのエキゾチックな音楽を作曲するようになりました。代表作は『シェエラザード』でしょうか。この『スペイン奇想曲』もかなりエキゾチックで色彩感に溢れた名曲です。
最初は「スペインの主題によるヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」としてスケッチされましたが、最終的には多くの楽器がソロを務める管弦楽曲の『スペイン奇想曲』となりました。
初演は1887年10月31日にペテルブルクにおいて、リムスキー=コルサコフ自身の指揮によるマリインスキー劇場管弦楽団の演奏で初演されました。初演を担当したオーケストラの団員からも高い評価を受けました。
本物のスペイン民謡
多くの楽器のソロがあります。ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、クラリネット、ハープ、フルート、ホルン、イングリッシュホルンのソロがあります
また本物のスペイン民謡が素材として取り込まれています。スペインの作曲家ホセ・インセンガが1874年に出版した「スペインからの響き」に掲載された、スペイン民謡の引用です。
曲の構成
曲は5つの部分から成り立っており、切れ目なく演奏されます。中心となる2つの部分をアルボラーダが繋いています。最後はファンダンゴで盛り上がって終わります。
1. アルボラーダ
アルボラーダは、スペイン北部のアストゥリア地方の舞曲で、朝の喜びを表現した舞曲です。明るく快活な音楽です。
2. 変奏曲
アストゥリア民謡の「夕べの踊り」の主題を元にした変奏曲です。
3. アルボラーダ
第1曲と同じ主題が間奏のように演奏されます。
4. シェーナとジプシーの歌
スネヤのロールの上でトランペットがファンファーレを吹きます。ソロが多い部分で、ヴァイオリン、フルート、クラリネット、オーボエ、ハープの順でソロがあります。
5. アストゥリア地方のファンダンゴ
始まりが4曲目と繋がっていて分かりにくいですが、カスタネットが合図です。ラストはアッチェランドしてスリリングに盛り上がり、華やかに全曲を閉じます。
おすすめの名盤レビュー
それでは、リムスキー=コルサコフ作曲スペイン奇想曲の名盤をレビューしていきましょう。
スヴェトラーノフ=ロシア国立管弦楽団 (1992年)
スヴェトラーノフ=ロシア国立管弦楽団の1992年の録音です。録音も良く、各パートのソロが鮮やかになり、色彩感が倍増しています。1990年前後は旧ソ連のオケもまだレヴェルが高かったころです。今、買うならこちらです。
第1曲「アルボラーダ」はスリリングなリズムと色彩感で素晴らしいです。第2曲「変奏曲」はホルンが素晴らしく、昔に比べてヴィブラートはあまり掛けなくなりましたが、良い雰囲気を醸し出しています。オーボエのソロも味わいがあります。スヴェトラーノフの円熟もあってか、オケに対する懐の深さもあり、より自然な音楽になっています。弦はコクのあるロシア的な響きを聴かせてくれます。
再び「アルボラーダ」となり、軽快なリズムの中でヴァイオリン・ソロとクラリネットのソロが出てきます。特にクラリネットのソロが技巧的にも素晴らしいです。「シェーナとジプシーの歌」のソロは特に木管のレヴェルが高いです。しかも、ロシア的なコクのある音色で味わい深いです。ハープもブリリアントで音楽的にも技巧的にも素晴らしいです。そして、少し速めのテンポで進んでいきます。ロシア国立管は当時のロシアのオケでも特に色彩的ですが、ここではその能力全開で、エキゾチックさと色彩感が絶妙にブレンドされています。乾いたカスタネットの音色も良く響いています。最後の「ファンダンゴ」は速いテンポで始まり、さらにどんどんアッチェランドしていき、白熱して曲を締めます。
エキゾチックさと色彩感、スヴェトラーノフのリズム感、ソロの上手さなど、このコンビの良い所が全て出たようなブリリアントな名演です。
スヴェトラーノフ=ソヴィエト国立管弦楽団
スヴェトラーノフとソヴィエト国立交響楽団の演奏です。録音年月日は不詳のようです。ソヴィエト国立交響楽団の技術的にはソ連時代のほうが上だったので、上の1992年録音盤と双璧の名演です。この『スペイン奇想曲』はソヴィエト国立交響楽団の驚くべき上手さとロシア風の迫力で、華麗な名演になっています。
冒頭はリズミカルで、かつダイナミックです。エキゾチックですが、同時にロシア風の音色が濃く、一度にスペインとロシアが味わえますね。ソヴィエト国立交響楽団は驚くほど上手く、ソロの華麗さは半端じゃないです。変奏曲は非常に味わい深いです。ヴィブラートをかけたホルンがソビエト時代らしいですね。3曲目アルボラータのヴァイオリン・ソロもキレがあって良いですが、クラリネットは上手いです。4曲目のシェーナとジプシーの歌はシャープなスネヤとトランペットのソロに続き、特に木管のソロが素晴らしいです。ハープのソロも鮮やかです。シャープなリズムの上で、快適に曲が進んでいきます。スペイン的な色彩感とロシア的な味わいが共存していて、5曲目ファンダンゴは最初から凄い速さで、限界までアッチェランドして締めくくります。
スヴェトラーノフの『スペイン奇想曲』はどの時代のものも、良さがあって聴いていてとても楽しめます。
マルケヴィッチ=ロンドン交響楽団
マルケヴィッチとロンドン交響楽団の演奏です。オケの実力の高さもあって、マルケヴィッチのシャープな音楽づくりも生きています。
1曲目アルボラーダは、スピーディかつダイナミックで溌剌とした演奏です。2曲目変奏曲は暗さの中に出てくるホルンの音色に味わいがあります。4曲目シェーナとジプシーの歌はスネヤとトランペットの輝かしさ、クラリネットのソロの素晴らしさ、ハープのソロも華麗です。速めのテンポで3拍子の舞曲に入ります。音の粒が立っていて良い演奏です。ラストは凄いアッチェランドです。ロンドン響も余裕で演奏しています。
1964年録音とは思えない音質で、シャープさ、ダイナミックさ、色彩感などよく収録されています。
小澤征爾=サイトウキネン・オーケストラ
小澤征爾とサイトウキネンオーケストラの演奏です。サイトウキネンオーケストラもヴィルトゥオーゾなオケなので、ロシア勢とは違う音色ですが、楽しめる演奏です。どちらかというと抑制的な表現の部分もありますが、それは悪い要素ではないです。
1曲目アルボラーダは、色彩感のある演奏です。アンサンブルの精度の高さが凄いです。2曲目変奏曲は精妙なエキゾチズムがあり、しなやかです。後半は弦のボリュームがあり、ソロも上手いです。4曲目シェーナとジプシーの歌のトランペット、ヴァイオリン・ソロはダイナミックかつシャープで聴きごたえがあります。木管のソロも上手いです。ハープも色彩的です。3拍子の部分はキレがあり、色彩感たっぷりでとても楽しめます。5曲目ファンダンゴのラストの追い込みも凄いアッチェランドですが、サイトウキネン・オケは余裕のアンサンブルです。
サイトウキネン・オーケストラのアンサンブルの精度の素晴らしさが良く分かる名演です。それだけではなくソロも凄いヴィルトゥオーゾオケなのだ、と再認識させられます。ノーブルな表現ですが、エキゾチズムもあり、楽しめます。
ペトレンコ=オスロ・フィル
ペトレンコとオスロ・フィルの演奏です。ペトレンコはキレの良い指揮をしていますが、オケのほうは、ロシア国立交響楽団ほどのダイナミックさはありません。とはいえ、録音も良く、小気味良くまとまった名演です。
1曲目アルボラーダは、目の覚めるような溌剌とした演奏です。速めのテンポでキレがあります。2曲目変奏曲はオスロ・フィルの音色にあった曲です。落ち着いた印象で、少しクールですが味わいがあります。3曲目のアルボラーダも溌剌として聴いていて気分が良いです。ソロは少し線が細いかも知れません。4曲目シェーナとジプシーの歌は、シャープで聴きごたえがあります。トランペットも上手く、ハープのソロも鮮やかです。全体的にはややコンパクトな感じもあります。その後、キレが良い3拍子となり、華やかな音楽になります。5曲目ファンダンゴは凄くアッチェランドしていきます。オスロフィルの限界ギリギリまで行っています。
アルボラーダが溌剌としていて良い演奏です。リズムはキレがあり、ペトレンコのオケの能力を活かす、まとめ方の上手さに感心させられます。
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楽譜・スコア
リムスキー=コルサコフ作曲のスペイン奇想曲の楽譜・スコアを挙げていきます。
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大判スコア
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