レオ・ドリーヴ (Leo Delibes,1836-1891)作曲のバレエ『シルヴィア』 (Sylvia)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
『シルヴィア』は同作曲家の『コッペリア』と共に、ドリーヴを代表する作品で、バレエで人気演目である『コッペリア』よりは、そのダイナミックで色彩的な音楽が、オーケストラや吹奏楽で演奏されます。
バレエでもアシュトン版がたまに上演されます。
解説
ドリーヴのシルヴィアについて解説します。
バレエ『シルヴィア』は、イタリアの詩人トルクァート・タッソの『アミンタ』(1573年)をもとにした3幕のバレエです。
初演とアシュトン版
初演は、1876年6月14日にメラント振付でパリ・オペラ座のガルニエ宮で行われました。しかし、初演ではそれほど人気が出ませんでした。それでもたまに上演されていたようです。
しかし音楽のほうは人気が高く、翌年ウィーンで再演されました。この上演はチャイコフスキーも見ており、非常に高く評価しました。
ちなみに音楽はワーグナーの影響を受けているため、金管が活躍するダイナミックなものになっています。もしかすると第2幕の色仕掛けのシーンはワーグナーの歌劇『タンホイザー』の影響を受けているかも知れませんね。また、狩りから戻ってきたシルヴィアとお付きの者たちは、楽劇『ワルキューレ』の女戦士のようです。
1952年にアシュトン振付でロイヤル・バレエで上演され、この時に人気が出ました。
1979年にパリ・オペラ座でリセット・ダルソンヴァル版が上演されました。さらに、1997年にノイマイヤーが新解釈で振付を行いました。
アシュトン版とノイマイヤー版はDVDで入手可能です。
あらすじ
バレエ『シルヴィア』のあらすじを書いておきます。ギリシャ神話のエロス(キューピッド)の矢のゴタゴタですね。バレエではシルヴィアが活躍する場面が多い作品で、シルヴィアの色々な感情がバレエで表現されます。なお振付によって大なり小なりあらすじが変わることがありますが、ここではアシュトン版のDVDの解説を参考にしています。
■第1幕
舞台はギリシアの聖なる森の中です。エロス(キューピッド)の神殿に、身分の低い羊飼いのアミンタがやってきてエロスに祈りを捧げます。アミンタは月と狩猟の女神ディアナに仕えるシルヴィアに恋をしています。そこにシルヴィアが狩りから戻ってきます。アミンタは身を隠します。
シルヴィアを見つめている男がもう一人、狩人のオリオンもシルヴィアに恋をしています。隠れていたアミンタですが見つかってしまい、皆の前に姿を現します。
アミンタはシルヴィアへの愛を告白しますが、シルヴィアはディアナへの忠誠を誓って拒絶します。そしてエロス(キューピッド)の気まぐれに怒ったシルヴィアは神像へ矢を射ます。アミンタは神像をかばってその矢を受けてしまいます。すると神像は動き出し、その矢でシルヴィアの心臓を射抜きます。その神像はエロスでした。エロスの矢(キューピッドの矢)で射抜かれたシルヴィアはその場を立ち去りますが、シルヴィアは徐々に心を変え、アミンタに会いに戻ります。しかし、そこにはオリオンが居て、シルヴィアは連れ去られてしまいます。
■第2幕
舞台はオリオンの島の洞窟になります。オリオンは財宝を差し出しシルヴィアの心を手に入れようとしますが、シルヴィアはアミンタのことを嘆き悲しみます。そしてシルヴィアはオリオンを色仕掛けで酒で酔いつぶし、エロスに助けを祈ります。エロスが現れ、アミンタが神殿の前で待っている様子を見せます。そしてシルヴィアを連れて神殿に向かいます。
■第3幕
ディアナの神殿にエロスとシルヴィアが到着すると、酒の神バッカスに捧げる祝祭がたけなわでした。そこでアミンタとシルヴィアは再会します。ところがオリオンが後を追ってきて祝祭に乱入します。その狼藉に怒ったディアナはオリオンを成敗します。
しかし、ディアナはシルヴィアとアミンタの恋仲を認めようとしません。
エロスはディアナに昔の恋人エンデュミオンのことを思い出させます。激怒していたディアナも考えを改め、シルヴィアとアミンタは晴れて結ばれます。
シルヴィア組曲
バレエ『シルヴィア』も組曲が作られていますが、4曲と少し曲数が少ないですね。全曲を聴いていくと、良い曲が沢山あります。
1.前奏曲-狩の女神
2.間奏曲-緩やかなワルツ
3.ピッツィカート
4.バッカスの行列
おすすめの名盤レビュー
それでは、ドリーヴ作曲シルヴィアの名盤をレビューしていきましょう。
マリ=パリ国立歌劇場管弦楽団 (全曲)
全曲盤では昔から定番のマリ=パリ・オペラ座管弦楽団の演奏です。劇場で録音したわけではありませんが、劇場付のオーケストラだけあって、臨場感のあるダイナミックな演奏です。アンセルメのこじんまりとした演奏と比べると雲泥の差ですね。特に金管が遠慮なく鳴らしてくるので、このダイナミックさは『シルヴィア』にぴったりです。
聴いていてとても楽しい演奏です。長いバレエ音楽ですが、親しみやすいメロディも多く、BGMとして聴いているといつの間にか全曲聴いてしまっている感じです。『コッペリア』もそうですが、ドリーヴのメロディ・メーカとしての才能と、色彩的なオーケストレーションには感心させられます。
カール・デイヴィス=ロイヤル・フィル (組曲)
カール・デイヴィスは、バレエ指揮者ではありませんが、インテンポでバレエ風なリズムを刻める指揮者です。ロイヤル・フィルは色彩的なサウンドで答えています。このCDは『シルヴィア』のみならず、オペラなどドリーヴの名作が抜粋で収録されていて、これらを聴けばきっとドリーヴに対する認識を改めることになると思います。それだけ、素晴らしい選曲と名演です。また録音が1996年と新しいこともあり、音質も透明感があって良いです。
アンセルメ=スイスロマンド管弦楽団 (組曲)
アンセルメ=スイスロマンド管弦楽団の『シルヴィア』と言えば、ずっと昔から定番だったCDです。『シルヴィア』は組曲4曲が入っています。色彩的で優雅な曲は、アンセルメがスタンダードを作ったと言っても過言ではない位です。録音は1959年でさすがに古さを感じます。ただ当時として、しっかりした録音で、色彩感や優雅さを良く伝えてくれます。元の録音がしっかりしているのでリマスタリングの状況によっては大きく改善される可能性があります。
一方、金管が活躍する曲では、そこまで金管を派手に鳴らしていないので、コンパクトな感じです。『シルヴィア』は意外と金管がダイナミックに演奏する曲も多いので、『コッペリア』と少し違います。いずれにせよ、アンセルメは『シルヴィア』に関して、完全に演奏スタイルを確立していて、完成度の高い演奏と言えます。今でもファンが多いCDです。
バレエ版DVD
バレエ『シルヴィア』は最近になって復刻上演されるようになってきました。
英国ロイヤル・バレエ (アシュトン版)
ロイヤルバレエはしばらくの間、アシュトン版の『シルヴィア』を上演していませんでした。2004年、アシュトンの生誕100年記念で復刻上演されました。バレエなので、一度上演が途切れてしまうと振付が分からなくなってしまう部分があります。そういう所を復刻する作業が必要になります。初演以来出演してきたニュートンらの記憶と、リハーサルを収めた古い映像により復刻され、上演されました。
アシュトン版は、1952年の作品なので古くはありませんが、コンテンポラリー・ダンスの要素はあまりなく、歴史的な舞台です。そのため、とても自然に楽しむことが出来ます。特に『シルヴィア』はギリシャ神話なので、歴史的な舞台の方が雰囲気が出ます。ロイヤル・バレエの分かりやすい演出もあって、難しいことを考えず楽しめる舞台になっています。なお、踊りの内容は筆者には良くわかりませんので、ご覧になってみてください。様々なサイトのレビューを見るとかなり良さそうです。
パリ・オペラ座バレエ (ノイマイヤー版)
ノイマイヤー版です。主役2人がデュポンとルグリで確かに豪華メンバーですね。ノイマイヤー版はコンテンポラリー・ダンスに近いです。
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楽譜・スコア
ドリーヴ作曲のシルヴィアの楽譜・スコアを挙げていきます。
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