寄港地(イベール)

ジャック・イベール(Jacques Ibert, 1890~1962)は交響組曲『寄港地』(Escales, 3 Tableaux Symphoniques)を作曲しました。地中海をイタリアからスペインまで航海した時のことを描いています。この作品は主に吹奏楽で親しまれていますね。オーケストラではあまり演奏されませんが、フランスのオケではたまに演奏されます。異国情緒に富み、色彩感あふれる明るい音楽で、人気の高い作品です。

このページでは、『寄港地』のオーケストラ版の名盤を挙げて比べてみたいと思います。

解説

イベール作曲の『寄港地』の解説をします。

ジャック・イベールは、フランスのパリに生まれ、フランス6人組の一人です。イベールは第一次世界大戦に海軍士官として従軍しました。戦後はローマ大賞を受賞してローマに留学しました。『寄港地』はローマ滞在中の1920年~1922年に作曲しました。

1924年1月6日、ポール・パレー指揮コンセール・ラムルー管弦楽団で初演されました。初演時から人気を集めイベールの出世作となりました。確かに1924年でこの親しみやすい曲想ですから、観客も理解しやすいでしょうね。

交響組曲『寄港地』は、「3つの交響的絵画」という副題を持っています。イベール自身が海軍士官時代に訪れた地中海沿岸の港の印象に基づいた曲です。イタリア、アフリカ、スペインの港町の情景がエキゾチックに描かれています。

ロマン派の作曲家は、音楽でそのまま絵画的描写をすることを避けていましたが、この時期になると、ストレートに交響的絵画と銘打っているのですね。

交響組曲『寄港地』

第1曲:ローマ~パレルモ
ローマからシチリア島のパレルモを目指す航海の情景です。
地中海の真っ青な海と波のうねりを思わせるような響きの後に、力強い舞踊のリズムとなり、パレルモの賑わいが描写されます。

第2曲:チュニス~ネフタ
チュニジアのイスラム教徒の町、チュニスから、南の奥地ネフタへの旅の情景です。チュニスは地中化沿岸のアフリカ大陸の都市では、エジプトのカイロ、モロッコのカサブランカに次ぐ3番目の都市で、白い建物が印象的です。ネフタは、チュニジアの奥地で、サハラ砂漠の手前にあり、地中海とは湖でつながっているように見えますが、軍艦で行ける所かはわかりません。遊牧民も居たりして、如何にもアフリカといった町です。ちなみに、このころのチュニジアはフランスの植民地です。

第3曲:バレンシア
スペインの生き生きとした情熱的な旋律とスペイン舞曲セギディーリャのリズムバレンシアの情熱的な印象を色彩豊かに描き出します。
バレンシアは、今での地中海沿岸の観光地都市でスペインで3番目の都市です。そしてパエリアの発祥の地ですね。

バレンシア発祥のパエリアという料理はスペインを代表する料理の一つです。以下のような海鮮のチャーハンみたいな感じです。味は全然違いますけど。


おすすめ名盤レビュー

イベール作曲の『寄港地』の名盤をレビューしていきます。

フルネ=オランダ放送フィル

  • 名盤
  • 異国情緒
  • 芳醇

超おすすめ:

指揮ジャン・フルネ
演奏オランダ放送フィルハーモニー

1996年9月,ヒルヴェルスム

ジャン・フルネの指揮による演奏です。地味で知名度が低いCDですが、「レコード芸術」特選でした。オランダの標準のレヴェルのオーケストラですが、おそらくフルネが色彩感を植え込んだのだと思います。比較的新しめの録音で、音質も良いです。

イベールの『寄港地』は、一番雰囲気が出ていて、深みのある色彩的な演奏です。北の方に位置するオランダのオケだからか、フランスのラテン系の演奏という感じではなく、低音が効いていて、少しひんやりしたところのあるサウンドです。

単に色彩的なだけではなく、第1曲の弱音器をつけた弦楽器のグリッサンドなどイタリア風のエキゾチズムがあります。ただマルティノンと比べるとラテン系とは行きませんね。ただ味わいはかなり深いです。第2曲もアフリカの怪しい雰囲気が良く出ていて、とても良いです。アフリカの奥地と言えばこんなイメージですよね。

第3曲もスペインの雰囲気の描写は素晴らしく、とてもエキゾチックで官能的、しかも味わいがあります。テンポも落ち着いていて、ラテン的な解放感は少ないですが、雰囲気をじっくり味わえる名盤です。最後はスケールのあるダイナミックさで締めくくります。

イベールでここまできちんと演奏したCDは少ないのでニッチをついたと言えるかも知れませんけど、他にこれを超える演奏は無いように思います。フルネの円熟あっての名盤だと思います。

フルネ=東京都交響楽団

  • 職人的

おすすめ度:

指揮:ジャン・フルネ、東京都交響楽団
録音:1980年9月22日~24日、荒川区民会館ホール

フルネの正規盤の名演のあとに、都響の演奏を入れると、ちょっと不利ですかね。やはり都響はこのあとマーラーにシフトしていったように色彩的な音楽は得意ではないようです。それに当時の都響はしなやかさに欠けるところがありました。

寄港地はも色彩感や異国情緒がないと今一つですが、デュカスの交響曲など、貴重な演奏が沢山あることは書いておきます。

マルティノン=フランス国立管弦楽団

ラテン的な明るさ、エキゾチックで情熱的
  • 名盤
  • 異国情緒
  • 色彩感
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ジャン・マルティノン
演奏フランス国立管弦楽団

1975年(アナログ)

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第1曲から非常に色彩的で明るい名演。ラテン系の響きが味わえます。かなりエキゾチックで情熱的な所もあります。当時のフランス国立放送交響楽団の魅力が全開で、盛り上がってかなり速いテンポになっていきます。明るい地中海の雰囲気に、聴いていて楽しくなってくる。第2曲はまあ普通ですが、録音の関係でオーボエがかなりエキゾチックに聴こえます。第3曲はリズミカルで弦の響きもラテン的な明るさがあり、カスタネットが印象的です。

中音域の弦はとてもエキゾチックです。イタリア風な情熱とスペイン風な情熱を上手く分けて演奏していると感じます。テンポも速くなっていき、あくまで明るく盛り上がります。とてもこのコンビはドビュッシーでも名盤を残していますが、イベールも色彩的でラテン的な名盤です。

ミュンシュ=ボストン交響楽団

ラテン的な明るさ、エキゾチックで情熱的
  • 名盤
  • 異国情緒
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮シャルル・ミュンシュ
演奏ボストン交響楽団

1956年12月9,10日,ボストン,シンフォニー・ホール(ステレオ)

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ミュンシュとボストン交響楽団という、この時代の音楽を牽引した大事なコンビの演奏です。意外と録音が自然で、古い割に気分よく聴けます。

オーケストラがアメリカのボストン交響楽団なので、エキゾチズムはフランスのオケと比べると少なめですが、ボストン交響楽団はアメリカのオケの中では表現力があるためか、物足りない感じはしないです。ミュンシュもかなり速いテンポでグイグイ引っ張っていくので、とても明るい開放感があります。エキゾチズムとは違う部分で楽しめます。

第2曲もいい感じです。なぜアメリカのボストン交響楽団がこんなにヨーロッパのオケのような演奏ができるのだろう?と思って今います。まあ、砂漠はアメリカのほうが本場かも知れませんけれど。第3曲もスペイン風とは違う所がありますが、エキゾチズムを感じる演奏になっています。ミュンシュの開放的な指揮が良いですね。管楽器が気持ちよく響きます。テンポは意外にも遅めで、味わいがあります。最後はダイナミックに明るく盛り上がり、気分良く終わります。

佐渡裕=ラムルー管弦楽団

  • 名盤
  • 色彩感
  • ダイナミック
  • 高音質

おすすめ度:

指揮佐渡裕
演奏ラムルー管弦楽団

1996年4月,パリ,サル・プレイエル(ステレオ/デジタル)

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若い佐渡裕は名門ラムルー管弦楽団の指揮者に就任しました。かつてマルケヴィッチが鍛え上げたアンサンブル力は衰えてしまいましたが、やはりフランスのオケらしいサウンドを持っています。一方、佐渡裕の演奏は、溌剌(はつらつ)としていて、良い演奏です。

第1曲など、録音の良さもあって明るい開放感と色彩的なエキゾチズムがバランスしていて名演です。第3曲はスペインというより吹奏楽のノリですね。「え、そこでタメるの?」と思ってしまいますが、わざとそうしたのかも知れませんけれどね。でも、いい演奏でミュンシュの演奏を思い出します。後半、テンポは速めになっていきますが、良く聴くとオーケストレーションに良く合っているのですね。

イベール作品集ですが、協奏曲は入れずに、管弦楽曲だけで1枚のCDにしているという貴重な一枚です。「祝典序曲」は日本の皇紀2600記念で作曲した曲です。R.シュトラウスの「祝典序曲」が有名ですが、イベールも作曲していたのですね。

ネーメ・ヤルヴィ=スイスロマンド管

独特なエキゾチックさのある名演
  • 名盤
  • 異国情緒
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ネーメ・ヤルヴィ
演奏スイスロマンド管弦楽団

2015年6月25-27日,ジュネーヴ,ヴィクトリア・ホール(ステレオ/デジタル)

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異国情緒を上手く出せる指揮者と言えばやはりネーメ・ヤルヴィは凄いですね。スイスロマンド管弦楽団との組み合わせは絶妙です。フランスのエスプリはありませんし、イタリア的、スペイン的といえるのか分かりませんが、異国情緒は凄いです。隠れた名盤だと思います。録音はシャンドスにしては、響きが今一つのような気がします。

デュトワ=モントリオール交響楽団

独特なエキゾチックさのある名演
  • 名盤
  • スタイリッシュ
  • 色彩感
  • 高音質

おすすめ度:

指揮シャルル・デュトワ
演奏モントリオール交響楽団

1992年5月,モントリオール,聖ユスターシュ教会(ステレオ/デジタル/セッション)

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デュトワはイベールの作品のみでCDを作りました。有名なフルート協奏曲がカップリングされています。演奏はこのコンビらしく、色彩的で高音質です。

第1曲はとても録音が良く色彩的で技術的にも素晴らしいですが、あまりシチリア島など、イタリア的な情緒は感じにくいですね。第2曲はエキゾチズムが少ない感じです。第3曲はとてもテンポが速く、リズミカルで楽しめます。スペインの雰囲気が出ていると良いですけど、ちょっと違いますね。ただ、とても上手くて色彩的なので、別のところで十分楽しめる名演です。普通に色彩的な舞曲ということで楽しめます。

上手いのですけど、エキゾチズムとか官能性を求めている人には、あまりお薦めできないかも知れません。技術的な上手さや音響の良さを求めている人には最適です。スコアを見ながら聴くにはとても良い演奏です。他の曲は『寄港地』ほどエキゾチズムを要求されないので、フルート協奏曲、他、はかなりの名演です。

パレー=デトロイト交響楽団

初演指揮者ポール・パレーによる色彩的な名演
  • 名盤
  • 色彩感

おすすめ度:

指揮ポール・パレー
演奏デトロイト交響楽団

1962年3月,デトロイト,Cass Technical High School(ステレオ/アナログ)

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ポール・パレーはフランスに居たころ『寄港地』の初演の指揮者となりました。ですので、イベールと直接話をして作曲者の要望を聞きながら、音楽づくりをしたはずです。

ポール・パレーとデトロイト交響楽団の演奏は、とても色彩的で技術的にも素晴らしいものがあります。録音も古いはずですが、あまり古さを感じさせないです。速めのテンポで進んでいきます。マルティノンに比べると、少しヴォキャブラリーが少ない感じで、アメリカのオーケストラでありがちですが、色彩的ではありますが、エキゾチックな部分に少し欠けるところもあります。

パレー時代のデトロイト交響楽団がこんなに色彩的で上手かったとは驚きました。でも『寄港地』の場合は、行く先々の港町のエキゾチズムが大事なので、そこが少し残念ですね。

プレヴィン=ロサンゼルス・フィル

リズミカルで色彩的ながら、丁寧にまとめた演奏
  • 名盤
  • 色彩感
  • 異国情緒

おすすめ度:

指揮アンドレ・プレヴィン
演奏ロサンゼルス・フィルハーモニー

1989年4月25日,ロサンゼルス

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プレヴィンとロスフィルの演奏は、第1曲が特に良かったです。色彩的で技術的にも素晴らしいです。イタリア的な解放感はミュンシュマルティノンのようには行きませんが、エキゾチズムは結構ある演奏です。テンポ設定も特に良くて、リズミカルで色彩的ありながら、丁寧さもあります。

第2曲は悪くはないですが、アフリカのイメージが今一つ湧いてこないです。第3曲は意外と落ち着いた演奏で、スペインらしさがあまり感じられないです。エキゾチズムを味わうには良い演奏ですけれど、何か解放感がもう少しあってもいいような気がしました。全体的には色彩的ですが、丁寧さを感じる演奏です。

オーマンディ=フィラデルフィア管弦楽団

  • 名盤

おすすめ度:

指揮:ユージン・オーマンディ、フィラデルフィア管弦楽団
録音:1960年11月20日、フィラデルフィア、ブロードウッド・ホテル

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3.5/5.0レビュー数:3個

(自作自演) イベール=パリオペラ座管弦楽団

  • 名盤
  • 歴史的名盤

おすすめ度:

イベールの自作自演もあります。古い録音ですが状態は悪くありません。これは、なかなかの演奏で、この曲のエキゾチックな雰囲気が良く出ています。イベールがこの作品で何を書きたかったのか、よくわかる貴重な記録です。一度は聴いてみるべき演奏です。

スコア・楽譜