アレクサンドル・グラズノフ (Aleksandr Glazunov,1865-1936)作曲の交響曲 第5番 変ロ長調 Op.55 (Symphony No.5 B-dur Op.55)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
グラズノフの交響曲第5番について解説します。
グラズノフの交響曲第5番の中では人気が高く、ロマンティックさと力強さを持った名曲です。特にレパートリーにこだわりのあるソヴィエト時代の名指揮者ムラヴィンスキーが積極的に演奏している交響曲でもあります。
グラズノフの交響曲
グラズノフは1865年8月10日に生まれ、チャイコフスキーを中心としたモスクワ楽派とムソルグスキー、ボロディンらを6人組中心とした国民楽派をうまく融合し、新しいロシア的な音楽を作曲しました。
若いころから音楽の才能が認められ、小グリンカと呼ばれていました。15歳の時に『シェエラザード』で有名なリムスキー・コルサコフに師事しましたが、グラズノフの成長の早さから同僚の作曲家と見做すようになりました。また、交響曲第1番ではチャイコフスキーからも激励を受けています。
作曲家として才能があっただけでなく、指揮者としても重要な活動をしており、自作の初演の他、他の作曲家の初演を指揮したり、初演に対するアドヴァイスを行ったりしています。
作曲の経緯
1895年4月~10月に作曲されました。
ベートーヴェンやブラームスを思わせるドイツ・ロマン派的な交響曲で、軽やかで洗練されたオーケストレーションと力強い構築力を持った作品です。グラズノフは交響曲第8番まで完成させましたが、第5番は中間に位置する力強い名作となっています。
初演
初演は1896年11月17日にサンクトペテルブルクの貴族会館にてグラズノフ自身の指揮により行われました。聴衆や評論家からは好評で初演は成功でした。グラズノフが影響を受けた作曲家であるセルゲイ・タネーエフに献呈されました。
曲の構成
一般的な4楽章構成で、演奏時間は約35分です。グラズノフは交響曲第4番で3楽章構成を採用しましたが、それ以外は全て4楽章構成で、保守的な作曲家といえます。
第1楽章:モデラート・マエストーソ~アレグロ
弦の主題により重厚に始まります。木管を中心にロマンティックで色彩的な主題が登場します。しっかりした構築力で充実感ととロマンティックさがあり、オーケストレーションも優れていて色彩感があります。
第2楽章:スケルツォ モデラート
色彩的なスケルツォ楽章です。
第3楽章:アンダンテ
緩徐楽章です。ゆっくりとしたテンポのロマンティックなメロディで始まりますが、徐々に感情的な深みを増していき、味わい深く楽しめる楽章です。
第4楽章:アレグロ・マエストーソ~アニマート
マエストーソで始まり、ロシア的な主題とリズムを使って盛り上がります。特にリズムはラフマニノフへの影響が感じられます。
フルート×3、ピッコロ×1(第3フルート持替)、オーボエ×2、クラリネット×3、バスクラリネット(第3クラリネット持替)、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×3、トロンボーン×3、チューバ
ティンパニ、シンバル、トライアングル、バスドラム、グロッケンシュピール
ハープ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、グラズノフ作曲交響曲第5番の名盤をレビューしていきましょう。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル
ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの録音です。来日公演で録音状況も良いです。
第1楽章の弦の主題から一気に引き込まれます。ロシア的で力強い弦セクションの一糸乱れぬ演奏がとても印象的です。かと思えば、バレエ音楽のようにロマンティックさも十二分に備えています。金管の力強さもさすがレニングラード・フィルです。そして中盤は思い切り力強く盛り上がりグラズノフの先入観を覆すようなダイナミックさです。第2楽章は木管の色彩感が印象的です。テンポ設定が良く、メリハリがついていて単なるバレエ音楽的な演奏ではなく、力強さがあります。
第3楽章は幅の広い弦の響きが心地よいです。ムラヴィンスキーといえば厳しい音楽が多いですが、グラズノフの緩徐楽章はとてもロマンティックでスケールが大きな演奏で、ロシアの広大な自然の中にいるようです。ロシア民謡的な主題も味わい深くコクのある表現で曲に浸れます。第4楽章は速めのテンポでダイナミックな演奏です。ベートーヴェン的なスリリングさのある演奏で、レニングラード・フィルのレヴェルの高さも堪能できます。民族主義的な主題もダイナミックに確信を持って演奏しきっています。
初心者から玄人まで誰にでもお薦めできる名盤です。一度聴いてみたけれどグラズノフの交響曲の良さが分からなかった、という人にはうってつけの名演です。
セレブリエール=スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
ホセ・セレブリエールとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の全集録音です。録音は良好です。ロシアと関係なさそうな組み合わせですが、民族的な響きもありますし、全集として聴くにはツボをしっかり押さえていて楽しめる名盤です。
第1楽章は落ち着いていて色彩感と味わいのある演奏です。じっくりと深みのある丁寧な表現です。味わいのある演奏で、これも曲に引き込まれる演奏です。力強さはレニングラード・フィルには敵いませんが、色彩感と自然な表現は別の魅力を引き出しています。木管のメロディも心にしみます。後半は金管も含めてさわやかに盛り上がります。第2楽章は速いテンポで小気味良く軽快に演奏しています。本来この位のテンポ取りが適切な気がします。とても色彩的で流麗さもあります。
第3楽章は清々しいホルンが印象的です。弦も艶やかさをたたえて自然に味わい深く演奏しています。『夜想曲』を聴いているかのようです。曲が進むにつれ、感情表現が強くなり、やはり味わい深さを堪能できます。色彩感もチャイコフスキーとグラズノフでは本質的な違いがあるように聴こえます。
クオリティの高い演奏でもあり、全集として聴くにはとても良い選択だと思います。味わい深く色彩感のある名盤です。
ラザレフ=日本フィルハーモニー
ロシアのバレエ音楽の巨匠でもあるラザレフの指揮による日本フィルのライヴ録音です。2016年のサントリーホールでの収録でとても高音質です。日フィルも色彩的でレヴェルの高い演奏を繰り広げています。
第1楽章は厚みのある弦にロマンティックな木管のソロで始まり、とても色彩感に溢れています。特に木管ソロはレヴェルが高く、高音質のおかげもあって息遣いまで聴こえてきます。ラザレフの指揮は推進力があり、力強いリズムをベースにした小気味良い演奏です。第2楽章は速いテンポで軽快です。木管を中心に色彩感があり、生き生きといていてメリハリもあります。
第3楽章はゆったりとした自然なテンポで木管や弦のメロディが美しく響き渡っています。次第に奥の深さを感じる音楽になっていき、熱く感情的に盛り上がります。第4楽章はオケのトゥッティにより堂々と始まります。エルガーの威風堂々を思い出してしまう位です。ロシア民謡風の主題も味わい深く、小気味良いリズムでスリリングに聴かせてくれます。盛大な最後はブラボーコールが入っています。
さすがロシアの名指揮者ラザレフで、日本フィルとも呼吸がぴったりあっていて、聴かせ所をしっかり聴かせてくれる名演です。
CD,MP3をさらに探す
楽譜・スコア
グラズノフ作曲の交響曲第5番の楽譜・スコアを挙げていきます。
電子スコア
タブレット端末等で閲覧する場合は、画面サイズや解像度の問題で読みにくい場合があります。購入前に「無料サンプル」でご確認ください。