アレクサンドル・グラズノフ (Aleksandr Glazunov,1865-1936)作曲のバレエ『四季』Op.67 (Ballet “Four seasons”)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
グラズノフの『四季』について解説します。
グラズノフは多くの作品を作曲していますが、その中でもバレエ『四季』は比較的人気の高い作品です。チャイコフスキーのバレエ音楽に似た響きですが、そこまでドラマティックさが無いので、存在感は薄いかも知れませんね。
吹奏楽に編曲され、昔から吹奏楽で演奏されてきた曲でもあります。ただバレエとしてもオーケストラでも取り上げられる機会は少ないですね。
ロシアの雪景色のようなオーケストレーションが素晴らしく、よく聴くと味わいが深く、隠れた名曲と言えると思います。
作曲の経緯
1899年にグラズノフは、振付家として有名なマリウス・プティパからバレエ作品の作曲を依頼します。1900年には完成しています。プティパはチャイコフスキーのバレエの振付をしたバレエ界では重要な振付師です。
初演
初演は1900年2月19日にサンクトペテルブルクのエルミタージュ劇場で行われました。依頼者のプティパが演出を担当しました。
ロマンティックなバレエ音楽
グラズノフらしくオーケストレーションに優れた曲で、ロマンティックなバレエらしいバレエ音楽です。チャイコフスキーのバレエは2時間程度とオペラ並みの演奏時間とドラマティックな筋書きを持っていますが、グラズノフのバレエ『四季』はドラマティックなストーリーは無く、各季節の風物詩の描写となっています。作曲年代は20世紀初頭ですが逆に一世代前のロマンティック・バレエのような作品です。
実はこれはプティパのアイデアで、『冬』から始めてロシアの四季の情景をバレエで表現しようというものです。
美しいメロディに溢れていて、オーケストラ曲として聴いても、とても味わいのある作品です。グラズノフの交響曲と比べても十分な内容がある曲と思います。ただ演奏を選びますね。ロシア的な力強さが無いと飽きやすい気がします。おそらく一番素晴らしい演奏はグラズノフの自作自演だと思います。古い録音ですけれど、曲の良さを再認識できます。
曲の構成
1幕4場のバレエ音楽です。全曲の演奏時間は45分程度です。
『冬』から始まりますが、ロシアの冬と言えば白夜もあるし、気温も零下20度などになる凍えた世界です。しかし、グラズノフはその中で雪景色のようなロマンティックな情景を描いていて、シリアスさはありません。チャイコフスキーの『くるみ割り人形』の幻想的な冬の世界に近いです。
ロシアの『春』はストラヴィンスキー曰く「大地がバリバリと音を立てて割れるような…」といった『春の祭典』のような凍てついた冬からダイナミックな春を迎えるのとは大分違い、のどかな雰囲気で、冬からゆっくり移り変わり、おだやかな旋律です。
『夏』はロシアではそれほど暑くもなく過ごしやすい季節です。『春』から切れ目なしに『夏』が演奏されます。おだやかな音楽で始まり、次第にスケール大きく盛り上がります。安心感のある音楽が続き、味わい深い個所が沢山あります。
『秋』は収穫祭がメインで、最初から「バッカナール」で、最後は「バッカスの礼賛」で締めくくっています。
四季を明確に区別した音楽では無く、とても繊細さがあり、日本人の感覚からすると、どの曲も北国のロマンティックさを感じてしまいます。前奏曲の主題が最後に出て来て、ダイナミックに曲を閉じます。
1.前奏曲
2.『冬』
情景
ヴァリアシオン:霜
ヴァリアシオン:氷
ヴァリアシオン:霰
ヴァリアシオン:雪
3.『春』
情景
バラの踊り
小鳥の踊り
4.『夏』
情景
矢車菊とケシのワルツ
舟唄
ヴァリアシオン:トウモロコシの精の踊り
終曲
5.『秋』
バッカナール
小さなアダージョ
バッカスの礼賛
6. アポテオーズ
ピッコロ, フルート×2, オーボエ×2(コーラングレ持替)、クラリネット×2, ファゴット×2
ホルン×4, トランペット×2, トロンボーン×3, チューバ
ティンパニ, トライアングル, タンブリン, 小太鼓シンバル, ドラム, 鉄琴
チェレスタ, ハープ, ピアノ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、グラズノフ作曲『四季』の名盤をレビューしていきましょう。
スヴェトラーノフ=フィルハーモニア管弦楽団
ロシアの巨匠スヴェトラーノフとフィルハーモニア管弦楽団の録音です。西側の録音なので音質は良いです。1977年とまだ円熟とまでは行かない時期の録音です。
冒頭の「前奏曲」はロシア的な寒さを感じさせるようなとても味わい深い演奏で、フィルハーモニア管をダイナミックに鳴らしています。「冬」は静かな個所は遅めのテンポで静謐(せいひつ)であり、フルート・ソロは細かい表現を聴かせてくれます。「ヴァリアシオン:霜」はリズミカルで色彩的です。「ヴァリアシオン:氷」は色彩感と味わい深さがあり、ロシアの土の香りを孕んでいて暖かみすら感じさせます。
「春」はしっかりしたリズムに少し重厚な弦の響きで、スヴェトラーノフらしいロシアの響きです。「秋」はスケール大きくダイナミックに鳴らしています。やはりグラズノフはロシアの作曲家だな、と思います。「小さなアダージョ」はとても味わい深く、名演奏です。ラストはダイナミックに盛り上がり、曲を締めます。
グラズノフを聴いているとは思えない位、ダイナミックで深みがあり、とてもロシア的な名盤です。初心者にもお薦めです。
セレブリエール=ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団
セレブリエールとロイヤル・スコティッシュ管のグラズノフ作品集からの演奏です。音質は十分に良く、残響も適切です。ロイヤル・スコティッシュ管の民族的な少しくすんだ響きがグラズノフ『四季』にぴったりはまっています。セレブリエールも味わい深い個所はじっくりと、色彩的な個所は生き生きと演奏しており、メリハリもあります。
冒頭の「前奏曲」で味わい深く、力強さを秘めた演奏です。「前奏曲」を聴いただけで名演が期待できるか分かってしまいます。『冬』はメリハリがあり、リズミカルな演奏が続きます。ロイヤル・スコティッシュ管の弦の音色も曲に相応しい味わいがあります。
『春』は冬の寒さが少し緩んだような雰囲気で、とても幻想的で深みを感じます。クラのソロも味があって素晴らしいです。『夏』はおだやかで、暖かみのあるワルツが印象的です。盛り上がってくると、色彩感はそのままに派手にパーカッションを使ってかなりダイナミックな演奏になります。「トウモロコシの精の踊り」はとてもリズミカルに盛り上がります。テンポ取りも上手く、舞曲の雰囲気をよく出していて、熱狂的に盛り上がります。
『秋』は軽快でダイナミックなスケール感のある演奏です。収穫祭の喜びに溢れていて、リズム感も良く、力強く盛り上がります。代わる代わる出てくる情緒ある音楽もしっかり味わい深く演奏しています。「小さなアダージョ」は思い切り感情を込めて深みがあります。非常に繊細で詩的なメロディも絶妙です。最後はスケール大きくダ
イナミックに盛り上がり、熱狂的に曲を締めくくります。
セレブリエールとロイヤル・スコティッシュ管の良さが良く出た演奏で、味わい深い個所を素通りすることなく十二分に聴かせてくれる名盤です。初めて聴く人にもこの曲の良さが理解できる名盤と思います。
アンセルメ=スイスロマンド管弦楽団
スイスの指揮者アンセルメとスイスロマンド管弦楽団の演奏は昔からの定番でした。録音は少し古めですが、このコンビの録音の中では良い方、と思います。
「前奏曲」はダイナミックに始まります。あまりロシア的な雰囲気は無く、とても丁寧な演奏で、クオリティの高さを感じさせます。バレエのリズム感はアンセルメらしくインテンポでとてもリズミカルです。この時代のスイス・ロマンド管の凛とした色彩的な弦の音色が印象的です。ワルツの美しいメロディがとても親しみやすく再現されています。グラズノフはこの作品で親しみやすい曲をいくつも書いていますが、そういった親しみやすいメロディの演奏はアンセルメの得意とする所で、ロシアの演奏家も敵いません。
クオリティは高いものがありますが、グラズノフ『四季』の本質的な良さを知るにはあまりに奇麗すぎる演奏に思います。もう少しロシア的なダイナミックさや味わい深さがあると万人にお薦めできるのですが…。名盤であることには変わりないので、2枚目以降に選ぶと良いと思います。
CD,MP3をさらに探す
演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
バレエのDVDは発売されていないようです。以下はコンサートを撮影したものです。
グラズノフの全集を録音したホセ・セレブリエールの指揮ぶりが見られる、ということで貴重なDVDですね。
DVD,Blu-Rayをさらに探す
楽譜・スコア
グラズノフ作曲の『四季』の楽譜・スコアを挙げていきます。