
フランツ・フォン・スッペ(Franz von Suppe, 1819~1895)作曲の軽騎兵序曲(Leichte Kavallerie, Light Cavalry)の解説とおすすめの名盤をレビューしていきます。またスコアもご紹介します。
軽騎兵序曲は、最初のファンファーレを知らない人はいない位、有名です。近年、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートに取り上げられたり、個性的な名盤も多いので、このページで色々紹介してみたいと思います。
筆者は、最初、スウィトナー=NHK交響楽団の演奏を好んで聴いていたのですが、ある日、名盤の誉れ高いカラヤン=ベルリンフィルの大上段に構えたダイナミックな演奏を聴いて驚きました。「これは違う、スッペじゃない!」実際の所、ウィンナ・オペレッタの曲ですから、どう考えてもカラヤンほど、パワフルに演奏していいものか疑問ですね。
次はショルティ=ウィーンフィルを聴いて、これまたびっくり。この力強さとシャープさは一体どう理解したものだろう、と思いました。ショルティはスッペの他の曲でも似たような演奏をしています。でもショルティってウィーンに近いハンガリー出身で、演奏もウィーンフィルです。
そんな感じで「今でも一番はスウィトナー!」と思っています。
解説
フランツ・フォン・スッペ作曲の軽騎兵序曲について解説します。
作曲者のフランツ・フォン・スッペはオーストリアの作曲家で、ウィンナ・オペレッタの父と呼ばれる存在です。フランスのオッフェンバックの影響でオペレッタを作曲しはじめました。
沢山のオペレッタを作曲しました。この喜歌劇「軽騎兵」のほか、「詩人と農夫」、「美しきガラテア」などが有名ですね。オペレッタ本体はウィーン・フォルクスオーパーで取り上げられることがあるようです。しかし、喜歌劇「軽騎兵」の場合、軽騎兵序曲の人気が高く、良く演奏されます。
軽騎兵序曲は最近はニュー・イヤー・コンサートで演奏されることが目立ちます。ウィンナ・オペレッタなので、ウィーンフィルも得意です。ウィンナ・ワルツではないのに、1997年(ムーティ)、2013年(ウェルザー・メスト)、2020年(ネルソンス)と3回も取り上げられています。
メロディが親しみやすく、難易度も低いため吹奏楽でもよく演奏されます。プロ野球の広島東洋カープの応援歌としても使われています。
おすすめCD、名盤レビュー
スッペの軽騎兵序曲の名盤をレビューして、感想を書いていきます。
スウィトナー=ドレスデン・シュターツカペレ
オーストリア出身のスウィトナーはスッペを得意としており、よく演奏していました。素朴で自然体の演奏で、大げさになることもなく、つまらない演奏でもありません。
NHK交響楽団で演奏した軽騎兵序曲も名演と言われています。テンポ取りが非常に適切で、これぞスッペ、ウィンナ・オペレッタです。これからオペレッタが始まりそうな雰囲気の名盤です。
スッペの序曲集はいくつかあります。どうもこれが決定盤というのが無いのです。いまだに一番いいのは、このスウィトナー=ドレスデン・シュターツカペレです。
ウェルザー=メスト=ウィーン・フィル
フランツ・ウェルザー=メストは、オーストリア出身の指揮者です。一時、若手指揮者だった時に注目されましたが、オペラの指揮者として経歴を積んできました。そうなると当然、スッペの軽騎兵序曲は得意なはずです。
聴いてみると、溌剌とした素晴らしい演奏です。シャープで迫力がありますが、あくまで軽快でウィンナ・オペレッタの演奏です。YouTubeで上に貼った演奏はクリーヴランド管弦楽団ですが、この曲に関してはオーストリアのウィーン・フィルのほうが数段上です。
ウェルザー=メストがウィーン・フィルとスッペの序曲集を録音してくれれば、決定盤になりそうですね。良いスッペの序曲集があれば、もともと親しみやすい曲ばかりなので、また昔のような人気が出ると思うのですけど。
ムーティ=ウィーン・フィル
ムーティとウィーンフィルの演奏です。1997年のニューイヤーコンサートでの演奏です。当時のニューイヤーコンサートでスッペが取り上げられたのは珍しいことでした。でも、同時代のウィンナ・オペレッタであり、このコンビにはとても合っています。
オペラで数多くの名演を指揮してきたムーティとウィンナ・ワルツを得意とするウィーンフィルの組み合わせです。ムーティは劇場で演奏するように自然体で軽騎兵序曲を指揮しています。
テンポもスウィトナーに近く、スウィトナーほど素朴でもありませんが、良い具合にキビキビと演奏しています。ウィーン・フィルもウィンナ・ワルツ同様スッペは得意で、演奏の仕方を完全に心得ていますね。
1997年はニューイヤーコンサート全体としてもレヴェルの高い年だったので、お薦めの名盤です。
2020年のニューイヤーコンサートで、また軽騎兵序曲が取り上げられました。指揮はネルソンスです。
ネルソンスはどの曲をやってもセンス良く演奏します。小気味良いウィンナ・オペレッタらしい名演です。特に劇場風の演奏という感じではなく、中間部やラストで大分テンポを変えています。
ムーティやスウィトナーのほうが上手い気がしますが、ネルソンスも器用に指揮していて、ウィーンフィルの良さを上手く引き出しています。
メータ=ウィーン・フィル
メータとウィーン・フィルのスッペ序曲集です。トランペットのファンファーレからキビキビとしていて、シャープな演奏です。テンポは少し速めですが、素朴な雰囲気は少なめです。ウィーン・フィルなのでウィンナ・オペレッタの範疇の演奏だと思います。
全体的に良い演奏だと思います。軽騎兵序曲のみでなく、スッペの序曲が沢山入っており、意外に面白い曲もあったりして、新しい発見がある名盤です。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤン盤を聴くなら、オーストリアのオペレッタである、ということをいったん忘れて、別の曲として聴くしかないと思います。
この壮大な音楽は、スッペの軽騎兵序曲なのでしょうか?それともカラヤン=ベルリンフィルの個性を聴いているのでしょうか?たぶんカラヤンはオーストリア出身なので、ウィンナ・ワルツも良く知っていますし、分かっていてこういうダイナミックな演奏にしたのだろう、と思います。
ウィンナ・オペレッタだ、ということを忘れて、楽譜だけを見てやればこういう演奏もできるのかも知れません。一般的には名盤とされていますが、この曲をここまでダイナミックにまじめに演奏するカラヤンはある意味凄いです。
他の曲もダイナミックですが、ここまで極端ではありません。
ショルティが若いころ(1959年)にウィーンフィルと録音したスッペの軽騎兵序曲です。キビキビしているのですが、全体的にちょっと力を入れ過ぎていて、オペレッタという感じがしないですね。
もちろん、レベルは高いし、こういう演奏もアリだとは思うのですが、スウィトナーなどを聴いてしまうと、何か違和感を感じざる負えません。
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楽譜
軽騎兵序曲の楽譜をいくつか紹介します。
ミニチュア・スコア
No.191 スッペ 軽騎兵序曲 (Kleine Partitur)
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