グスターヴ・ホルスト (Gustav Holst,1874-1934)作曲の吹奏楽のための組曲 第1番 第2番 Op.28 (Suite for Military Band No.1 No.2)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
ホルストの吹奏楽のための組曲は第1組曲と第2組曲があります。両方ともよく演奏されますが、第1組曲のほうがユニークな曲で人気です。中高生の頃は「この第1曲と第2曲はどうしてこんな曲になったのだろう?」と不思議に思っていました。
解説
ホルストの吹奏楽のための組曲について解説します。
ホルストは組曲『惑星』で有名になったため、スペクタクルな作品を作曲する作曲家だと考えている人もいるかも知れません。実際はイギリス民謡を使用した小規模な曲が多いです。ホルストはイギリスの古い村として有名なコッツウォルズ地方の出身で、沢山のイギリス民謡のある所です。また、宗教音楽も多く作曲しており、合唱曲も多いです。
第1組曲
吹奏楽のための第1組曲の作曲、初演の背景は、不明点が多いです。1909年に作曲され、同年に初演したとされています。確実な所では王立軍学学校で1920年6月20日に演奏されたことが分かっています。出版は1921年です。
第1楽章:シャコンヌ
バロック時代に流行った形式です。低音の音型が繰り返され、その上で主題が変奏されて行きます。
第2楽章:間奏曲
3楽章しかないのに、ここで急に間奏曲?という感じですが、なかなか面白い曲です。
第3楽章:マーチ
フィナーレに相当する楽章はマーチになっています。ダイナミックですが、少し風変わりな主題のマーチです。中間部がイギリス民謡風なので、それに関係するのかも知れません。
第1曲のシャコンヌはバロック時代のフランス音楽の形式です。ホルストは古楽の研究も行っており、特にイギリスのバロック期の作曲家ヘンリー・パーセルの作品も研究していました。
第1曲は対位法の技術を用いて書かれた名曲ですが、このユニークなモチーフはパーセルと関係あるのでしょうか。パーセルも天才肌の作曲家でユニークなメロディを多く書いていますので、その研究成果なのかも知れませんね。全体的にホルストの個性が際立っている、と思います。
ちなみにシャコンヌはブラームスの交響曲第4番の第4楽章に使われています。その頃に古い音楽を研究する作曲家が増え、新古典主義につながっていきます。ホルストもその流れの上にいます。
ホルストは「この組曲は休みなしで演奏することを望む」としていますが、特にアタッカなどの指示はありません。
第2組曲
吹奏楽のための第2組曲は、1911年に現在の第3曲以外の3曲からなる組曲として作曲されました。1921年に軍楽隊の編成が変更された機会に、1922年に改定が行われ、今の形になりました。初演は1922年6月30日にロイヤル・アルバート・ホールで王立軍学学校の吹奏楽団により行われました。
第2組曲はイギリス民謡から取られた素材を元にして作曲されています。比較的理解しやすい音楽です。第4曲はセントポール組曲(弦楽アンサンブル曲)に転用されています。セントポール組曲から転用されたのか、と思っていましたが、逆だったのですね。
第1楽章:マーチ
数曲のイギリス民謡が使用されています。
第2楽章:無言歌
軍楽隊で無言歌といえば、何を指すかお分かりと思いますが、「私の恋人を愛す」という曲が使用されています。
第3楽章:鍛冶屋の歌
「鍛冶屋の歌」が転用されています。鍛冶屋の音に、
第4楽章:ダーガソンによる幻想曲
「ダーガソン」という8小節の循環旋律が全体で繰り返され、対旋律として「グリーン・スリーブス」が出てきます。
1948年ブージー&ホークス版
出版にあたり、1948年にブージー・アンド・ホークス社で編成を増やしたヴァージョンで広く使われています。
その後、1970年にホルスト自身の自筆譜が公開されると、それを元にした「原典版」が登場しました。
筆者は中高生時代に吹奏楽部だったので、いずれも演奏したり指揮したりしたことがありますが、第1組曲の第1楽章は不思議な主題を使っているなぁ、と思っていました。インテンポで演奏すると効果的な曲でした。まあ、組曲『惑星』の「木星」のホルンの主題も少し不思議と感じるので、ホルストの感性なのかも知れませんけど。第2組曲は民謡なのは知っていましたが、第1組曲のように面白く演奏したい、と思って試行錯誤しましたが、似ても焼いても食えない感じで、工夫したつもりが、なんだか変な演奏になってしまいました。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ホルスト作曲吹奏楽のための組曲の名盤をレビューしていきましょう。
フェネル=イーストマン・ウィンド・アンサンブル (1959年)
フェネルとイーストマン・ウィンド・アンサンブルの演奏は、昔からの定番です。日本の吹奏楽団の演奏よりは、自然でしなやかさがありホルストらしい雰囲気が出ています。しかし、録音が1959年なので古いですね。
フェネル=クリーヴランド管弦楽団管楽セクション (1978年)
フェネルとクリーヴランド管弦楽団の管楽器セクションという、強力な組み合わせです。フェネルは丁寧な指揮で、ダイナミックさを引き出すというより、普通の吹奏楽の流儀でしなやかに演奏しています。もっとヒンデミットのようにダイナミックに演奏すれば良かったのに、とも思いますが、ホルストだとこんな感じなのかも知れませんね。
シャコンヌの中から色々な表情を引きだしています。最初の低音の主題提示から、サックス、ホルンのソロが非常に上手いです。ただ、クラリネットの数が少ないようにも聴こえます。オーケストラにはそんなにクラは居ないですからね。エキストラを追加しないとかなり少ないと思います。その代わり、いままで聞こえ難かった対位法的な動きや音量の小さなパートが聴こえて新鮮です。最後の盛り上がりもダイナミックで素晴らしいです。間奏曲もオーケストレーションの面白さが分かりますし、全パートが意味を持って響いていて、味わいもあります。マーチはダイナミックですが、細かい所が詰められています。フェネルは完全にスコアが頭に入っているんでしょうね。少し変わった和音も見逃さずにきちんと演奏しています。
第2組曲は、しっかりしたリズムと綺麗なアンサンブルです。第2曲無言歌の雰囲気も良いです。第3曲は楽しめます。個人的には鍛冶屋はもっと金属的な音がいいですけど。第4曲は良く曲を理解して演奏していると思います。第2組曲は、曲としての完成度は高いのですが、意外と遊べない曲なのでこんなものかな、という感じです。
カップリングの『王宮の花火の音楽』は、吹奏楽の演奏としては、なかなかです。フランス風序曲でちゃんと音を詰めている辺りは感心します。あとはスケールが大きく、ハーティ版ベースという感じですけど。
スタッブズ=ロイヤル・エア・フォース・セントラル・バンド
スタッブズとロイヤル・エア・フォース・セントラルの演奏です。シャンドス・レーベルに録音されていて、元々新しく高音質ですが、残響も丁度良く、気分良く聴けます。技術的にもレヴェルが高く、まとめ方もセンスが良いです。ただ日本での演奏スタイルと大分違い、イギリスの軍楽隊の演奏とも大分スタイルが異なるので、刷り込みがあると期待外れになるかも知れません。楽譜はブージー&ホークスではなく、マシューズ校訂版を使っています。
第1組曲のシャコンヌはしなやかに始まります。力が抜けた木管が軽やかにリズムを刻みます。軍楽隊だとこういうしなやかさが出ない演奏が多いです。ホルンとサックスのソロも良いです。その後の短調の部分はとても味わい深いです。スケールが大きくなって、ラストの盛り上がりも力みは無く、自然に響き渡ります。間奏曲は細かい所までしっかりまとめていて、しっとりとした自然な響きで味があります。マーチはイギリスのバンドらしい遅めのテンポでダイナミックです。ただ、編成が小さめなのか、音量を落として自然に中間部に入ります。そのメロディも雰囲気が出ていていいですね。ラストはかなりダイナミックになります。
第2組曲はマーチから小編成であることが感じられます。トランペットなど上手いですし、アンサンブルも緻密ですが、表現が自然でしなやかです。第2曲無言歌は遅いテンポでじっくり歌っています。第4曲はインテンポで最初から最後まで通しています。強弱は良くついていますし、表現はしっかりしていて、味がありますね。
全体的に、吹奏楽というより、管楽アンサンブルといった風情で、普段あまり吹奏楽を聴かない人でも違和感なく聴け、イギリスの小品が味わい深く楽しめるCDです。
ハワード・ダンの指揮によるダラス・ウィンド・シンフォニーの演奏です。技術的にはフェネル=クリーヴランドを聴いてしまうと、それで十分な気もしますが、この演奏も録音は良く、手慣れた演奏でアンサンブルも上手いです。ダイナミックさもあり、軍楽隊をレヴェルアップしたようなアンサンブルです。
第1組曲は普通の吹奏楽でありそうな演奏です。ソロなどは上手いです。意外な響きが聴こえてきたりはしないのですが、ダイナミックで軍楽隊のようなスタイルです。マーチも遅めのテンポで上手いテンポ取りで、ダイナミックに聴こえます。第2組曲は第1楽章が凄く速いですね。第2楽章は味わい深いです。第3楽章の鍛冶屋の金属音は良い感じです。第4楽章は一定のテンポで演奏しています。
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楽譜・スコア
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