ジローラモ・フレスコバルディ (Girolamo Frescobaldi,1583-1643)作曲の『音楽の花束』Op.12 (“Fiori musicali” Op.12)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
フレスコバルディと名前を聞いただけだと、堅苦しい宗教音楽の作曲家を思われるかも知れませんが、フレスコバルディはバロックの初期の究極の癒し系作曲家です。
解説
フレスコバルディの音楽の花束について解説します。
フレスコバルディの音楽
ジローラモ・フレスコバルディはJ.S.バッハより前のバロック初期の作曲家です。イタリアの作曲家で、対位法(ポリフォニー)をよく使用し、同時にまだ完全には確立していない和声音楽(モノフォニー)もよく使った作曲家です。
ローマに近いパチカンにあるサン・ピエトロ大聖堂のオルガニストを長い期間務めてきました。つまり、当時のオルガニストの最高峰にいたということですね。
和声進行が少し大胆なことろがあり、そこが却ってとても味わい深いです。人によっては変態的和声進行なんて言う人もいます。一度、ハマると他に似た作曲家がいないので、色々な曲が聴きたくなってきます。他にもいくつか癒し系の音楽が沢山あります。このサイトでは最終的に3曲程度紹介しようと思っていますが、まずは代表作の『音楽の花束』です。
『音楽の花束』とは?
『音楽の花束』は、1635年に鍵盤楽器用のミサ曲集として、ヴェネチアで作曲されています。この頃、ヴェネチアと言えばモンテヴェルディも活躍しており、地中海の交易地としてとても栄えていました。後にヴィヴァルディもヴェネツィアで活躍します。バロック時代を通じて重要な地です。
『音楽の花束』は出版され、以降の作曲家に大きな影響を与えています。また、弟子にはフローベルガーなど、有名な作曲家もいます。
3つのミサ曲集からなり、オルガンと合唱で演奏されます。ミサとありますが、聴いてみるとあまり宗教的な雰囲気はしません。世俗的な曲が多いからです。
トッカータ、キリエ、カンツォーナ、カプリッチョ、リチェルカーレなどから成り立っていますが、キリエを除き、意外に宗教的要素が少ないです。トッカータ、リチェルカーレはあまりはっきりした意味はなく「器楽曲」という意味です。トッカータは前奏を指す場合も多いですが、リチェルカーレは世俗的な器楽曲です。カンツォーナはシャンソン(歌)を表していて、歌曲を器楽曲に持ち込んだものです。形式はフーガなどが使われます。カプリッチョは一応奇想曲で、特定の形式は持っていません。
実際聴いてみても舞曲ベースをベースに対位法を使った音楽が多いです。アンサンブルは少ないですが、フレスコバルディはヴァイオリン、チェロなど、まだ新しい楽器の器楽曲を作曲しています。『音楽の花束』はそれら世俗的な器楽曲の様式をミサに取り込んでおり、ルネサンス風の対位法よりも、バロック風の技法を用いたミサになっています。曲を聴いてみるとこれがカトリックの最高峰であるサン・ピエトロ大聖堂で演奏された、なんて考えると不思議な気もします。
第1集:日曜のミサ (ミサ・デッラ・ドメニカ)
第2集:使徒のミサ (ミサ・デッラ・アポストリ)
第3集:聖母のミサ (ミサ・デッラ・マドンナ)
バッハがフレスコバルディの『音楽の花束』の写本を持っていた有名ですかね。『音楽の花束』はフレスコバルディの鍵盤音楽の集大成です。バッハはブクステフーデの影響が大きいですが、フレスコバルディ、ヴィヴァルディなどイタリアバロックの影響も大きく受けています。
長い曲ですが、終盤の曲がかなり力が入っています。上のYouTubeは最後から2曲目ですが、この辺りはフレスコバルディの凄さが良く出ていて面白いです。こんな感じで、結構リズミカルな3拍子系のリズムを使い、宗教曲もありますが、舞曲ベースの音楽が多いです。バッハと異なり、厳しさや完璧さよりも、自由さもあります。それでいてバッハも参考にする位で、ただ自由奔放に書いているわけではなく、独自のスタイルがあります。
レスピーギの『リュートのための古代舞曲とアリア』にフレスコバルディは引用されていませんが、同時代の音楽が引用されていて、似たような特徴を持つ曲もあります。
あとは長い曲であるため、BGMのように聴いていくのがいいかも知れません。全てが名曲とも言えないかも知れませんが、良い曲が沢山あります。
おすすめの名盤レビュー
それでは、フレスコバルディ作曲の『音楽の花束』の名盤をレビューしていきましょう。
フレスコバルディ・ボックス
このフレスコバルディ・ボックスは、なかなか入手しにくい『音楽の花束』のCDでも特に素晴らしい演奏が収録されています。少し高いかも知れませんが、他にもいくつかこのサイトで紹介しようと考えている曲も入っています。これを買えばフレスコバルディは十分すぎる曲目が収録されている反面、この時期の器楽曲は色々な演奏スタイルがあり、即興やチェンバロの弱音器などが積極的に使われていて、演奏そのものが気に入るかどうかは結構好みが出てきそうです。
『音楽の花束』はその時代に相応しいオルガンを使った名演奏で、奇をてらったところは無く、端正かつリズミカルで、フレスコバルディに対する理解度が深いです。最初から最後まで飽きずに聴けますし、BGMとしてもとても良い演奏で、こんなに癒される演奏も他には無いと思います。。途中で入るオルガンを操作する時の音なども含めて、音質も良く、筆者はこれ以上の名演奏を聴いたことがありません。少し高くても確実な選択です。
さまざまな種類のフレスコバルディの曲が入っています。宗教曲も多いですが、注目すべきは器楽曲です。フレスコバルディはバロック初期の作曲家であり、ルネッサンス時代にはあまり無かった器楽曲が多いのが特徴です。まだ「ソナタ」というのは存在しない時代ですが、3曲程度からなる世俗的な器楽曲が多く収録されています。フレスコバルディの時代はヴァイオリン属が主流になり始めたころで、既にこれだけの曲が作曲されていたことに驚きます。コレッリのレヴェルには達していませんし、特別な名曲があるとも思いませんが、既に多くの曲が存在し、良く弾かれていたことを思わせます。演奏も時代に忠実なもので質が高く、ヴィブラートのかかったモダン楽器などは出てきません。
ニーズがあるのか、ロング・セラーのボックスですが、これが廃盤になると多くの曲が入手困難になるので、欲しい人はお早めに。
オルガン:マウリツィオ・クロチ
フレスコバルディ・ボックスは高い、ということでしたら、『音楽の花束』のみが入ったCDもあります。マウリツィオ・クロチのオルガンによる演奏です。合唱はアンサンブル・スティルプス・イェッセです。オルガンは装置の切り替えなど、ノイズは少なく、透明感の高い響きです。録音も良く、音質のクオリティも高いです。演奏スタイルは上のロベルト・ロレギアンとあまり変わらないと感じますが、オルガンの音色はこちらの方がエッジが立っており、はっきりした音色で、少し印象が違います。ただ、どちらも良い演奏で録音も良いので、後は好みの問題かなと思います。
筆者はフレスコバルディ・ボックスのロベルト・ロレギアンのほうが癒し系で好みですかね。
オルガン:セルジオ・ヴァルトロ
セルジオ・ヴァルトロがオルガンを弾いたCDです。このCDは昔から評価が高い演奏として知られています。曲順は「聖母のミサ」が2番目に入っています。ベルガマスカのトラックには、その前にバッハの有名な曲が入っています。えっと、この曲はゴルドベルク変奏曲でしたでしょうか。有名な聖歌なのか、フレスコバルディからの引用なのかは良く分かりませんけれど。ボーイソプラノらしき独唱が2声入っていて、原曲には男声合唱しか無いと思いますので、編曲が加えられているということかも知れません。
テンポ取りは上の2つの演奏とは大分違います。もし、2枚目が欲しい方はこちらの方が違いが楽しめると思います。
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楽譜・スコア
フレスコバルディ作曲の音楽の花束の楽譜を挙げていきます。