ベルリオーズ レクイエム

エクトル・ベルリオーズ (Hector Berlioz,1803-1869)作曲のレクイエム ト短調 Op.5 (死者のための大ミサ曲Requiem g-moll Op.5)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップで楽譜・スコアまでご紹介します。

声楽ファンの間では、ベルリオーズの傑作として評価の高い作品です。オーケストラは大編成でバンダが3部隊もあります。初演のアンヴァリッド(サン・ルイ教会)での音響を考えており、ベルリオーズの管弦楽法の凄さが堪能できる作品でもあります。モーツァルト、フォーレ、ヴェルディの三大レクイエムに比べると知名度は低いですが、ベルリオーズの力作であることには間違いありません。

解説

ベルリオーズレクイエムについて解説します。

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作曲の経緯

ベルリオーズの『レクイエム』は、フランス政府から1837年3月に依頼を受けて作曲されました。「7月革命」および1835年の「ルイ・フィリップ王暗殺未遂事件」の犠牲者を追悼するため、レクイエムの作曲することになりました。
ベルリオーズはまだ33歳と若手でしたが、ベルリオーズの支持者であった内務大臣アドリアン・ド・ガスパランの意向による異例の抜擢でした。

1837年3月に依頼を受けたベルリオーズですが、式典は1837年7月で時間がありませんでした。それでもベルリオーズ自身の『荘厳ミサ曲』などから転用し、1837年6月29日には完成させました。

ベルリオーズは後に以下のような言葉を残しており、

全作品の中で一つだけ残せと言われれば、私は『死者のための大ミサ曲』を残してくれるように慈悲を請うだろう

ベルリオーズ自身にとっても特別な曲であることを伺わせます。

ベルリオーズ最大の曲ですし、ドラマティックで激しい感情表現は『幻想交響曲』以上の凄さです。

曲の構成

基本的には『レクイエム』に沿った構成ですが、歌詞の変更があることと、「ベネディクトゥス(祝福された者)」が省略され、「サンクトゥス(聖なるかな)」が繰り返されます。演奏時間は約1時間30分です。

ベルリオーズのレクイエムというと、派手なオーケストレーションのダイナミックな所が目立ちますが、結構ミサらしい美しい曲もあります。

それにしても合唱はずっとスケール大きく歌っているので、後半になるとバテてくる演奏も多いですね。

ベルリオーズ『レクイエム』

第1曲 :レクィエム – キリエ (Requiem and Kyrie)
静かに始まり、途中盛り上がりますが、また静かになり終わります。荘厳な雰囲気を作り上げます。

第2曲 :怒りの日 – 奇しきラッパの響き (Dies irae)

「怒りの日」の主題が演奏され、徐々に盛り上がります。頂点では「最後の審判」を告げるラッパの音が響き渡り、バンダもフル活用したダイナミックな音楽です。

第3曲 :そのとき憐れなるわれ (Quid sum miser)
第4曲 :恐るべき御稜威の王(Rex tremendae)
第5曲 :われを探し求め (Quaerens me)

無伴奏の合唱による静かな音楽です。

第6曲 :涙の日 (Lacrymosa)

オーケストラが伴奏し、合唱が「かの日こそ涙の日」を歌います。オーケストラはリズミカルで鋭いアクセントがついています。徐々に盛り上がり、バンダも加わり大音響に発展します。

第7曲 :主イエス・キリストよ (Offertorium)
第8曲 :賛美の生贄 (Hostias)
第9曲 :聖なるかな (Sanctus)

テノール独唱が登場する美しい曲です。その後、合唱がいくつかのフーガを歌っていき、聴いていて楽しめる曲です。フーガはもっと他の曲に出てきても良さそうですが、意外に少ないですね。

第10曲:神羊誦と聖体拝領唱 (Agnus Dei)

バンダが活躍する終曲です。編成は大きいですが、清涼な雰囲気のある楽章で、静かに全曲を閉じます。

初演をめぐるゴタゴタ

初演の場所はパリのアンヴァリッドのドーム教会で行われることになりました。しかし、式典の規模は縮小され、結局初演は行われませんでした。内務大臣アドリアン・ド・ガスパランが退陣したことも大きな要因だったと言われています。ベルリオーズは初演のために数回行った合唱練習で借金を作ってしまいました。

ベルリオーズは初演のために精力的に活動し、初演は1837年12月5日にアンヴァリッド(サン・ルイ教会)で行われたダムレモン将軍の追悼式で行われました。

初演場所のアンヴァリッドとは?

アンヴァリッド(Les Invalides)

アンヴァリッドとはオテル・デ・ザンヴァリッドが正式名称で、ルイ14世が傷病兵を看護する施設として1674年から使用されています。その後、オテル・デ・ザンヴァリッドに大聖堂の建設されます。1677年に始まり、後に兵士の教会とドーム教会に分かれ、ブリュアンの弟子ジュール・アルドゥアン=マンサールのもとで1706年に完成しました。

編成

テノール独唱
ソプラノ2部(80人)、テノール2部(60人)、バス2部(60人)

フルート×4、オーボエ×2、コーラングレ×2、クラリネット×4、バスーン×8
ホルン×12
ティンパニ8対(奏者10人)、大太鼓×2、タムタム×4、シンバル×10対
弦五部(最低で第1ヴァイオリン25、第2ヴァイオリン25、ヴィオラ20、チェロ20、コントラバス18)

バンダ1:コルネット4、トロンボーン×4、チューバ×2
バンダ2:トランペット×4、トロンボーン×4
バンダ3:トランペット×4、トロンボーン×4
バンダ4:トランペット×4、トロンボーン×4、オフィクレイド×4

劇的なレクイエム

ベルリオーズのレクイエムは、死者の追悼、というより、レクイエムの情景をドラマティックに表現しています。ヴェルディのレクイエムもある意味ドラマティックですが、ロッシーニの死を悼む意味がある曲です。

ベルリオーズは自身の先進的な管弦楽法を活かして演奏効果を追い求めています。四方から聴こえてくるバンダは、もともと残響の長い教会において、さらに効果的で、ダイナミックな音の洪水に囲まれているかのようです。もちろん、味わい深い曲もありますが、盛り上がる箇所は壮絶なまでのダイナミックさです。そして静かな合唱による清涼な音楽も聞き逃せません。その中でも低音の楽器(オフィクレイド?)が、地獄のようなグロテストさを添えていたり、とオーケストレーションは素晴らしいものがあります。

『レクイエム』を作曲した時、ベルリオーズは33歳と若く、身近な人の追悼でもないので、劇的と言われますが、ダイナミックな盛り上がりは約2か所のみで、それ以外は静かで清涼な合唱も印象的です。ミサ曲の分野ではテ・デウムなども作曲していて、劇的なだけではなく、色々な表情があります。

大聖堂での演奏

ベルリオーズの『レクイエム』は、ベルリオーズの作品の中でも最も派手で大編成のオーケストラで演奏されます。演奏会場は教会を想定していて、そこでオーケストラやバンダの配置など計画されていました。教会の大聖堂で映像で観るととても良い大曲です。

バーンスタイン=フランス国立放送管弦楽団、他

映像の中で、一番有名なのは、バーンスタインとフランス国立放送管弦楽団のものです。場所は初演場所であるアンヴァリッドです。LDの時代にはリリースされていて、かなりお気に入りのディスクでしたが、DVD化されていないようです。YouTubeで発見しましたが、画質も音質も今一つな気がします。これがバンダの配置など、初演当時を考慮しており、演奏もバーンスタインの渾身の指揮ぶりとオーケストラのダイナミックさで凄いものでした。

もう一つ、コリン・デイヴィスとバイエルン放送交響楽団を中心とした演奏の映像があり、こちらもYouTubeで時々見かけます。演奏は重厚で素晴らしいものです。ただバンダの配置はバーンスタイン盤の方が良いと思います。

おすすめの名盤レビュー

それでは、ベルリオーズ作曲レクイエム名盤をレビューしていきましょう。

ネルソン=フィルハーモニア管弦楽団

大聖堂の豊かな残響、静かな箇所の美しさ、合唱を重視したネルソンの名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 清涼
  • 壮麗
  • 大聖堂
  • 高音質

超おすすめ:

テノールマイケル・スパイアーズ
指揮ジョン・ネルソン
演奏フィルハーモニア管弦楽団
合唱フィルハーモニア合唱団
合唱ロンドン・フィルハーモニー合唱団

2019年3月8日,ロンドン,セント・ポール大聖堂 (ステレオ/デジタル/ライヴ)

ジョン・ネルソン指揮、フィルハーモニア管弦楽団、合唱団らによるライヴ録音です。大聖堂での演奏を収録しており、高音質で残響の長さもそのまま収録されていて臨場感があります。大聖堂の演奏だと時差があるので、アンサンブルは難しいですが、この演奏はかなりのクオリティで縦の線も十分合っています。

「レクイエム – キリエ」は冒頭から結構アクセントをつけて、合唱も声量があり、壮麗なアンサンブルになっていきます。メリハリが良くついていて、金管も遠慮なく咆哮しています。「怒りの日」は冒頭から緊張感があり、低弦から合唱に受け継がれていきます。段々緊張感を伴って盛り上がり、少しテンポアップしていきます。そして金管楽器がダイナミックに咆哮します。ティンパニが入ると密度の高いダイナミックな音響になり圧巻の盛り上がりです。合唱も含めて物凄い盛り上がり様で、聴いていて気分爽快です。最後の残響は、5秒位はあると思います。

「そのとき憐れなるわれ」も合唱中心に壮麗で表情豊かに演奏されていきます。「恐るべき御稜威の王」はダイナミックで壮麗です。この演奏は劇的な表情付けのヴォキャブラリーが多く、テンポも動かして上手く聴かせてくれるので、飽きることなく一気に聴いていけます。合唱に柔らかさがあり、芳醇な響きが楽しめます。

「涙の日」速めのテンポで激しく情熱的です。ただ残響が長いのでそこは好みが分かれそうです。リズミカルでスリリングで、慟哭するような激しい感情も入っています。演奏は合唱もオケもクオリティが高く、残響があっても崩れません。後半さらに迫力を増し、凄いダイナミックさで圧巻な演奏になっていきます。

「サンクトゥス」は神々しい弦の響きから始まります。フーガは速めのテンポで力強く歌われています。中間は合唱や弦が神々しく歌い、テノールが情熱的に歌い、レクイエムらしい世界観を築いていきます。フーガが再度始まり、盛り上がって曲を締めます。「アニュス・デイ」は合唱が静かに歌いますが、金管の低音の楽器はオフィクレイドでしょうか。とても効果的に使われています。最後の盛り上がりも容赦なく金管や打楽器を鳴らし、そして最後は深みのある合唱で曲を締めます。

このレクイエムは合唱の能力が良く活かされていて、オケと合唱の絡みも上手くまとめています。合唱中心の演奏と思いますが、所々オケを上手く使って独特な雰囲気を作り上げています。

パッパーノ=ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

音質の良さと立体的な響き、爽快でクオリティの高い名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • 爽快
  • 高音質

超おすすめ:

テノールハビエル・カマレナ
指揮アントニオ・パッパーノ
演奏ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
合唱ローマ聖チェチーリア国立音楽院合唱団

2019年5月3,4日,アムステルダム,コンセルトヘボウ (ステレオ/デジタル/ライヴ)

アントニオ・パッパーノとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による録音です。大聖堂ではなく、音楽ホールの「コンセルトヘボウ」で録音されています。残響は名コンサートホールだけあって、適切で録音も綺麗な音質です。

「レクイエム – キリエ」ははっきりとした歌声で始まります。弱音でもしっかりイントネーションを録音していてダイナミックレンジが広いです。中盤、厳めしく盛り上がり、自然なメリハリがあります。「怒りの日」は力強い低弦から始まります。地の底から湧き上がるような迫力で徐々に盛り上がります。この息の長い盛り上がりの設計は良いですね。金管の轟音が響き渡り、ティンパニのロールは地の底から這いあがるような迫力とスケールの大きな合唱で、立体的な迫力があります。その後、静けさが戻り、木管が神秘的な響きが印象的です。「恐るべき御稜威の王」レヴェルの高い合唱のアンサンブルが聴けます。とてもリズミカルでスリリングで、パッパーノらしい演奏です。非常に壮麗で爽やかさがある音楽です。その後、静かな合唱のアンサンブルもクールで神秘的です。

「涙の日」は、激しさよりはスケールの大きさを感じます。オケと合唱は少しクールさがあり、ダイナミックです。中間あたりでは美しい歌声を響かせています。また盛り上がってくるとティンパニも轟音を立てていますが、スケール感があっても美しさを失わない演奏です。

「サンクトゥス」はテノールは繊細に登場します。合唱も透明感があり、とても清々しさが感じられます。合唱のフーガはテンポが速めで颯爽としたスリリングな演奏です。「アニュス・デイ」も木管も合唱もとても神々しい響きで、熱気を伴って盛り上がります。

パッパーノは見た目によらず荒さは無く、きちんと整理され理性のある演奏にまとめられています。もちろん盛り上がりはスケール大きく、スリリングです。音質も大聖堂に比べ残響が少な目で、アンサンブルが乱れることは無く、しっかりまとめられた名盤です。

ミュンシュ=ボストン交響楽団

激しい感情表現も爽やかに聴かせてくれる名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 爽やか
  • ダイナミック

おすすめ度:

テノールレオポルド・シモノー
指揮シャルル・ミュンシュ
演奏ボストン交響楽団
合唱ニュー・イングランド音楽学校合唱団

1959年4月 (ステレオ/デジタル/セッション)

シャルル・ミュンシュとボストン交響楽団を中心とした録音です。歴史的にもベルリオーズの『レクイエム』の凄さを伝えてきた貴重な録音です。音質は少し古さを感じさせます。残響は少なめですが、リマスタリングにより大幅に改善されてきています。ミュンシュはバイエルン放送響との録音もあり、こちらも評価が高いです。

「怒りの日」は合唱が徐々に盛り上がっていき、そこにオケが入ってきます。かなり声を張り上げていますが、とてもレヴェルの高い合唱で、最高潮になっても美しく爽やかな歌声です。そして金管のバンダが恐るべきダイナミックな演奏です。録音に奥行きが無いので、どの音がバンダか分かりにくいですが、本当に恐るべき迫力です。「そのとき憐れなるわれ」は静かな中に奥の深さを感じさせます。「恐るべき御稜威の王」はスピード感のある演奏で、合唱のアンサンブルもスリリングですし、途中で入るオケのダイナミックもすごい熱気です。

「涙の日」は凄い迫力で圧倒されますが、ボストン響のサウンドの爽やかさがあり、合唱もどこか涼しい風のような感じで、ミュンシュの迫力というのは色々な種類があるんだな、と思います。終盤は音が割れる寸前で地下から湧き上がってくるようなパーカッション、金管の強奏にも全く負けない合唱で圧倒されます。

「サンクトゥス」はとても爽やかでテノールの歌声は天上から聴こえてくるようです。合唱のフーガは爽やかに曲を盛り上げていきます。

レクイエムに対するミュンシュの理解が深く、激しく表情を付けていますが、ボストン響や合唱の爽やかな響きが上手くバランスしていて、聴いていて気分の良く曲の本質が味わえる名盤です。

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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)

ベルリオーズのレクイエムは、楽器編成が非常に大きく、バンダも半端な編成ではありません。映像で観ると圧巻な迫力があります。

小澤征爾=ボストン交響楽団

  • 名盤
  • 定番

超おすすめ:

指揮小澤征爾
演奏ボストン交響楽団
合唱タングルウッド祝祭合唱団

1994年12月10日,サントリーホール (ステレオ/デジタル/ライヴ)

小澤征爾とボストン交響楽団、タングルウッド音楽祭合唱団らの演奏の映像です。来日公演でサントリーホールでの上演をNHKが収録したものです。1994年の収録で画質も音質も良好です。

C.デイヴィス=バイエルン放送交響楽団

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮コリン・デイヴィス
演奏バイエルン放送交響楽団

(ステレオ/デジタル/ライヴ)

ベルリオーズを得意とするコリン・デイヴィスとバイエルン放送交響楽団を中心とした映像です。管理人はLDを持っているため、このDVDがどの位の品質か分かりませんが、Amazonの評判を見ると安心してよさそうです。

教会の大聖堂で演奏され、ベルリオーズと得意とするコリン・デイヴィスらしく、ダイナミックで引き締まった演奏になっています。

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楽譜・スコア

ベルリオーズ作曲のレクイエムの楽譜・スコアを挙げていきます。

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