エル・サロン・メヒコ (コープランド)

アーロン・コープランド (Aaron Copland,1900-1990)作曲のエル・サロン・メヒコ (El Salon Mexico)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップで楽譜・スコアも紹介します。

『エル・サロン・メヒコ』は複雑なリズムを持った10分程度の管弦楽曲です。吹奏楽にも編曲され、人気のある作品となっています。吹奏楽コンクールの制限時間にも短めのカットで対応できます。聴いてみると最初の主題が親しみやすく有名です。

解説

コープランド『エル・サロン・メヒコ』について解説します。

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コープランドの出世作

コープランドは20世紀のアメリカを代表する作曲家のひとりです。アメリカの民謡を素材として、親しみやすく明るい音楽を多数作曲しました。コープランドはニューヨーク州ブルックリンでユダヤ系ロシア移民の息子として生まれました。1921年にパリに留学し、ナディア・ブーランジェの弟子となりました。留学中にジャズを素材とした音楽を作曲しましたが、次第に違和感を感じるようになります。1924年にアメリカに帰国後、ジャズをベースとした音楽を書いたガーシュインとは異なり、ジャズではないアメリカの民族主義的音楽を模索します。例えば、バルトークコダーイのように民謡を蒐集し、クラシックの技法で民族主義的な音楽を作曲しようとしたのです。

その後、コープランドは1930年代~1940年代にかけて『ビリー・ザ・キッド』、『ロデオ』、『アパラチアの春』「アメリカ的な音楽」を確立していきます。

『エル・サロン・メヒコ』はコープランドの出世作です。ただしアメリカではなくメキシコのダンスホールが舞台です。コープランドはメキシコの民族音楽にも関心を持ちました。

メキシコ民謡が素材

「メキシコ・シティで人気のダンスホール」という副題を持っており、メキシコ・シティに実際にあったダンスホールの様子を描写した音楽です。コープランドは1930年代初頭にメキシコに訪れ、興味を持ったのでした。その後、4曲以上のメキシコ民謡の楽譜を入手し作曲しました。1932年に作曲を開始しましたが完成したのは1936年でした。

初演は1937年にカルロス・チャベスの指揮によりメキシコ交響楽団が行いました。

曲の構成

この曲は10分程度の曲で、4つのメキシコ民謡が取り入れられていることは既に書きました。曲の形式はあまりはっきりしたものが感じられませんが、少なくとも前半と後半で分かれています。複雑なリズムと、モチーフが次々現れ絡み合っていきます。前半も後半も静かな音楽からクレッシェンドして盛り上がります。

おすすめの名盤レビュー

それでは、コープランド作曲の『エル・サロン・メヒコ』名盤をレビューしていきましょう。

バーンスタイン=ニューヨーク・フィル

アメリカ的な軽快なリズム、表情付けもこなれた名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 軽快
  • スリリング

超おすすめ:

指揮レナード・バーンスタイン
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック

1989年10月,ニューヨーク (ステレオ/デジタル/セッション)

バーンスタインとニューヨークフィルの演奏です。晩年の演奏で、表現も多彩で変化に富んでいます。楽譜を再現しただけの音楽では無く、メキシコ民謡の雰囲気とリズムを感じさせます。録音もしっかりしていて、ドライな音響で多彩な表現やダイナミクスを良く収録しています。『エル・サロン・メヒコ』の定番の一つですね。

冒頭ははっきりしたリズムを軽快でダイナミックに刻んでいます。ファゴットとトランペットの主題は表情豊かで滑稽さが良く出ています。その後、リズム取りは自然で良いですね。盛り上がってきますが、リズムは正確で、アンサンブルはしっかりしていますパーカッションや金管はとてもダイナミックです。後半の穏やかな部分は南米の穏やかさを感じさせます。段々とリズミカルになってくると、自然なアッチェランドがかかります。クラリネットのソロは非常に上手く品があります。木管群のレヴェルの高さもこの名盤の特徴ですね。盛り上がってきて、ダイナミックに曲を閉じます

ジンマン=ボルティモア管弦楽団

安定したリズムと高音質、新しいスタンダードの名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 高音質

おすすめ度:

指揮デイヴィッド・ジンマン
演奏ボルティモア管弦楽団

1993年 (ステレオ/デジタル/セッション)

ジンマンとボルティモア交響楽団は、1990年代あたりにレヴェルが向上し、録音の音質も透明感があって非常によく、アメリカ音楽をクラシックの流儀で演奏するには、良い組み合わせです。この演奏は、ドラディ指揮の『グランド・キャニオン』の後半にあったドラティのコープランドを置き換える形で、CD化されています。丁寧なドラティ盤と比べて、格段に良いか?と言われるとそこまででも無いですが、透明な響きとリズミカルさで聴きやすい演奏です。

冒頭は透明感のある弦のパーカッション、金管のしっかりした演奏で、複雑なリズムもしっかり演奏しています。アメリカ音楽というより、クラシックの純粋な音楽として良く練られた演奏です。トランペットのソロが上手いです。ファゴットは滑稽ですが、クラシック風の上品さがあります。弦の色彩感に溢れる音色は素晴らしく、控えめな表現がクラシック風です。その後、リズミカルに盛り上がっていきます。後半は、響きが良いので明るさの中にシャープさと色彩感があって楽しめます。穏やかな所も色彩的な味わいがあります。リズミカルになってくると、クラリネット・ソロがシャープで非常に上手いです。段々盛り上がってきますが、盛り上げ方はしっかり考え抜かれていて、クオリティが高いです。最後はダイナミックに曲を締めます。

スラトキン=デトロイト交響楽団

スコアを深くまで読み込んで表現した名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 高音質

おすすめ度:

指揮レナード・スラトキン
演奏デトロイト交響楽団

2012年11月,デトロイト,オーケストラ・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

スラトキンがデトロイト交響楽団を振った演奏です。デトロイト交響楽団といえば、ドラティがテンポは遅めなものの、内容の充実した名盤を残していますスラトキンスコアを深く読みこむタイプで、ドラティに似た所があります。一方、デトロイト交響楽団はドラティの時に比べると最盛期とは言えないかも知れません。ただ録音が良くなって、細かいニュアンスまでしっかり録音されています。

スラトキン真面目な指揮ぶりで、スコアをしっかり読みこんでいますが、ドラティに比べると表現のヴォキャブラリーは少ないような気がします。あるいは極端な表現をあえて避けているのかも知れません冒頭はしっかりしたリズムとダイナミックさで良い演奏です。ファゴットとトランペットは技術的に素晴らしいですが、真面目な表現です。アンサンブルのクオリティは高いです。クレッシェンドしていきますが、ダイナミックになりすぎない演奏ですね。後半は落ちついた穏やかな表現で始まります。クラリネットソロなどはレヴェルが高く、安定しています。

メキシコ的な暑さを感じる演奏というよりは、堅実さのある演奏だと思います。

マータ=ダラス交響楽団

メキシコ人マータの指揮によるドライで快活な名盤
  • 名盤
  • 定番
  • シャープ
  • スリリング
  • ダイナミック
  • 民族的

超おすすめ:

指揮エドゥアルド・マータ
演奏ダラス交響楽団

1986年 (ステレオ/デジタル/セッション)

メキシコの指揮者マータとダラス交響楽団の演奏です。『エル・サロン・メヒコ』はメキシコでインスピレーションを得て、メキシコ民謡が取り入れられた曲なので、メキシコ人指揮者マータの演奏は興味深いです。

冒頭から速いテンポでスピード感のある演奏です。複雑なリズムは当たり前のように演奏しています。ファゴットの滑稽さも面白いです。トランペットも上手い表現です。その後も速めのテンポで段々と盛り上がっていきます。リズムのキレの良さはメキシコ人指揮者マータの特徴でしょうか。シャープなリズムでダイナミックに盛り上がり、金管もダイナミックに鳴らしています。後半は、穏やかな部分から始まりますが、メキシコ的な乾いた響きとリズムが聴けます。早めにアッチェランドしてきて、シャープなリズムがいいです。一方
クラリネット・ソロは割と普通です。複雑に絡み合ったリズムがシャープに響き、鮮烈なリズムになっていきます。パーカッション、特にスネヤを強く鳴らしています。最後はダイナミックに盛り上がり、シャープなパーカッションの一撃で曲を締めます

ドラティ=デトロイト交響楽団

丁寧で表情豊か、密度の濃い演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩的
  • 高音質

おすすめ度:

指揮アンタル・ドラティ
演奏デトロイト交響楽団

デトロイト,オーケストラ・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

ドラティとデトロイト交響楽団の演奏です。昔からの定番で、バースタインとは異なり、スコアをしっかり読みこんで解釈し、表情が豊かです。テンポが遅めで、リズムはそれほど強烈ではありませんが、色彩的で良い演奏だと思います。バーンスタイン盤とドラティ盤は両雄です。

冒頭ダイナミックで色彩的で、リズムもしっかりしています。ファゴットとトランペットは滑稽な音楽を色彩的に描いています。段々とリズミカルに盛り上がってきます。リズムはそれほど強烈ではなく、丁寧さがありますが、当時のデトロイト交響楽団のレヴェルの高さもあって、スケール大きく盛り上がります後半は穏やかで楽しく進んでいきます。段々とリズミカルになってきて、木管のソロが増えてきます。クラリネット・ソロはハイレヴェルです。ダイナミックになってくると、色彩的な響きになってきます。最後はダイナミックにスケール大きく曲を締めます

メキシコの雰囲気はそれほどありませんが、この曲が持っている様々な表情を丁寧に描き出した名盤です。

コープランド=ロンドン交響楽団

コープランドの自作自演は結構上手い
  • 名盤
  • 定番
  • 自作自演

おすすめ度:

指揮アーロン・コープランド
演奏ロンドン交響楽団

1968-1970年 (ステレオ/アナログ/セッション)

コープランド自身が指揮したロンドン交響楽団の録音です。コープランドの自作自演は結構レヴェルが高いので、これを聴くとコープランドの意図がよく分かります。もっともオケが勝手に演奏している部分もあるので、全てがコープランドの意図かどうかは難しい所もありますが、結構コープランドの意図を反映している部分が多いと感じます。

冒頭は少し遅めのテンポで演奏しています。ファゴットの滑稽な表現がとても上手いです。トランペットのほうは、割とストレートですね。ロンドン交響楽団はレヴェルは高いですがイギリスのオケなので、アメリカのオケと違って、アメリカ大陸らしい民族的な演奏はしていないようです。そのため却ってコープランドの意図が出やすいと思います。その後、穏やかになりますが、遅めのテンポで味わいがあります。リズミカルになってくると、少しリズムの処理がぎこちないですが、ダイナミックに盛り上がっていきます。後半遅い部分で弦がメキシコらしい明るさの中にも味わいがある演奏をしています。段々盛り上がってきて、クラリネット・ソロは比較的普通です。ダイナミックになってきて、複雑なリズムもしっかりしています。乾いた響きでダイナミックな演奏になっていきます。

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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)

コープランド=ロサンゼルス・フィル

コープランドの自作自演
  • 名盤
  • 定番

指揮アーロン・コープランド
演奏ロサンゼルス・フィルハーモニック

1976年,ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン(ロサンゼルス・ミュージック・センター)(ステレオ/アナログ/セッション)

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楽譜・スコア

コープランド作曲のエル・サロン・メヒコの楽譜・スコアを挙げていきます。

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