フランツ・シューベルト (Franz Schubert,1797-1828)作曲の交響曲 第5番 変ロ長調 D.485 (symphony no.5 b-dur D.485)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
シューベルトの第5番は特にベートーヴェンを意識したものでは無く、比較的小編成で古典派風でとても親しみやすい交響曲です。同時にとても味わいがあり、シューベルトの才能を感じさせます。恐らく、『未完成』より前の交響曲で一番人気ですね。
解説
シューベルトの交響曲第5番について解説します。
作曲
1816年9月に作曲を開始し、10月3日に完成しました。オットー・ハトヴィッヒが指揮するオーケストラのために作曲されたと考えられています。
古典派へのオマージュ
曲調はモーツァルトやハイドンに似ており、古典派時代のオマージュのようです。表面的には普通の古典派交響曲にも見えますが、ロマン派的な傾向も強く、流麗なメロディはロマン派のものです。すなわち、ロマン派作曲家のシューベルトから見た古典派風の交響曲と言えます。またシューベルトらしいセンスの良さで味わいのある音楽になっています。
小さめの編成
楽器編成は小さめで、知る人ぞ知る人気曲でありながら、アマチュア・オーケストラではあまり取り上げられません。特にティンパニがないのは珍しいですね。
フルート×1、オーボエ×2、ファゴット×2
ホルン×2
弦5部
楽曲の構成
一般的な4楽章構成です。演奏時間は30分前後で決して小さな交響曲ではありません。
第1楽章:Allegro
ソナタ形式です。軽妙でリズミカルですが、交響曲第3番とは違い落ち着きもあります。
第2楽章:Andante con moto
ロンド形式の緩徐楽章です。
第3楽章:Menuetto
スケルツォではなくメヌエットが使用されています。ただ曲調はスケルツォに近いテンポです。中間部は古典派というより、シューベルトらしい歌心のある流麗な旋律です。
第4楽章:Allegro vivace
おすすめの名盤レビュー
それでは、シューベルト作曲交響曲第5番の名盤をレビューしていきましょう。
アーノンクールが非常に得意としていて、なんと3種類も全集を作っています。他にもカール・ベームの昔ながらの名盤、ヴァントのクオリティの高い名盤、新しいガーディナー盤など、名盤の多い曲です。ただ、良くない演奏も多いので、良く選んで買う必要があると思います。
アーノンクール=ロイヤル・コンセルトヘボウ管
アーノンクールとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のセッション録音による全集からです。このコンビはハイドンのピリオド奏法でも非常に素晴らしいディスクを残していますが、このシューベルト全集も本当に目の覚めるような新鮮さがあります。録音も1992年なので古い訳ではありません。コンセルトヘボウ管の透明感のある響き、小気味良い音楽づくりで、今聴いてもトップを争う名盤です。
第1楽章はアーノンクールのしなやかでメリハリのある表現が印象的です。コンセルトヘボウ管は大編成のモダン・オケですが、重さはほとんど感じられず、小気味良く軽妙な表現です。同時に少しひんやりとした響きは深みも感じられます。フォルテになると鋭いアクセントが付き、ノンヴィブラートの透明感のある響きとなり、弱音の個所はソロの音色が素晴らしいです。展開部もアーノンクールらしいアーティキュレーションで面白く聴かせてくれます。第2楽章は速めのテンポでシチリアーナ風の味わいがあります。素朴な少年のような音楽ですが、同時に格調も高く、弦や木管の絡みも絶妙です。後半、短調が増えると表情豊かで、とても丁寧に練り上げています。第3楽章はシリアスな位、シャープなリズムです。中間部は、一転して穏やかになり、透明な響きの中で木管やホルンの響きが美しいです。格調がありますね。第4楽章は意外に速くは無く、その代わりにテクスチャを練り上げていて、様々な表現が出てきて、密度が濃く遅いとは感じません。ヴォキャブラリーの豊富さには感心させられますし、メリハリがあるのでアレグロ楽章としてとても楽しめます。
いま聴くと、普通に名演奏ですが、最初に聴いたときには他の演奏とのあまりの違いに驚いたものです。アーノンクールのピリオド奏法の顕著な成功例の一つです。迷ったら、この全集を持っておくべきで、他の番号も含めて曲の面白い個所がよく分かります。
アーノンクール=ベルリン・フィル (2006年)
アーノンクール2度目のシューベルト交響曲全集からです。オーケストラはベルリン・フィルです。旧盤のロイヤル・コンセルトヘボウとの録音で十分素晴らしい演奏でしたが、新盤は録音も良くなり、明晰さのある演奏に仕上がっています。アーノンクールの指揮もこなれていて充実しています。
第1楽章はベルリン・フィルらしい明晰さとしなやかさの共存した演奏です。元々、ラトルとの演奏でピリオド奏法に慣れているベルリン・フィルだけに、アーノンクールと共演しても違和感は全くありません。木管のソロの多い曲ですが、やはり手練れが多く、ソロの聴きごたえがあります。旧盤とはオケのキャラクターの違いと、アーノンクールも革新的というより、充実感のある演奏を繰り広げています。第2楽章は明るい響きの中に、アーノンクールらしいアゴーギクがあり、リズムを失わずにメロディを歌っています。後半は重みも出てきて、深みも感じられます。第3楽章はシャープでリズミカルな演奏です。中間部は対照的に遅めのテンポでじっくり歌いまわしています。第4楽章は中庸なテンポですが、リズミカルです。アーノンクールらしい細かいテクスチャで、しなやかさがあります。かなりダイナミックで、メリハリも強いですね。
第5番は少し重いかな、とも思いますが、全集としては新盤か旧盤か、はどちらが良いとも言い難く、正直好みの問題と思います。
ベーム=ウィーン・フィル
カール・ベームはシューベルトを得意としていて、「シューベルトと言えばベーム」という時代もありました。『未完成』の名演を考えれば、そういう評価も納得できます。ウィーン・フィルとの演奏で、テンポも遅めです。ピリオド奏法や古楽器オケと比べるとスケールが大きく、構造的でしっかりした演奏です。またベームの円熟が感じられます。音質も良くクオリティの高い録音です。
第1楽章は、スケールが大きめで堂々たる演奏です。一つ一つの音を丁寧に扱っているのが印象的です。結果として子供っぽくなることなく、ロマン派的な格調の高い演奏になっています。第2楽章も遅めで、ベームのモーツァルトのような歌心と丁寧さがあります。後半にいくほど、テンポを落とし、しみじみと深く味わい演奏になっていきます。第3楽章も遅いですね。中間部のしなやかな歌いまわしが印象的です。第4楽章は落ち着きのあるテンポで、丁寧に演奏しています。ロココ調という感じで、優雅さと味わいがあります。
ベームはロマン派的な演奏で、シューベルトの歌心のある旋律や深みを存分に表現しています。この曲は古典派的ですが、ロマン派的な作りなので、こういう演奏もアリだと思います。今となっては貴重な演奏だと思います。
ガーディナー=オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティック
ガーディナーと古楽器オケであるオルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティックの演奏です。シューベルトは録音こそ無いですが、手慣れている感じで昔の演奏のような先鋭なものではないです。2016年なので新しい録音で高音質です。古楽器オケですが、演奏を聴いていると、シューベルトの時代にあった楽器を使っていると思われます。
第1楽章は古典派風のとてもスタンダードなアプローチです。しっかりした形式感の中にモーツァルトやハイドンとも異なる情熱があり、古典派風ですがロマン派の交響曲なのだ、と感じさせてくれます。この曲は古典派風の小じんまりしたイメージがあったので、古楽器オケでこういう演奏を聴くと目から鱗です。第2楽章は、古楽器オケ特有のメッサデヴォーチェを使った歌いまわしで、格調高くかつ歌心があります。シチリアーナのようなリズムの心地よい流れの中で自然に歌われており、とても大人っぽい雰囲気です。ベームとも大分違い、少しひんやりとした肌触りでガーディナーも円熟した演奏が増えましたね。後半、短調になると深みも増してきます。第3楽章はとてもリズミカルです。情熱的で力強さがあります。中間部はリズムを失わず、自然な美しさがあり、ホルンの響きが素晴らしいです。第4楽章はライヴだからというのもあるかも知れませんが、少し白熱した演奏です。もちろんシューベルトの則を超えることはありませんが、第5番がこんなも力強くスリリングな音楽だったのか、と再認識させられます。
古楽器オケは厚みのあるサウンドです。同時に最近の録音で透明感もあり、響きが良く収録されていて絶妙です。
ヴァント=北ドイツ放送交響楽団
ヴァントはシューベルトを得意としていました。他のオケとのライヴなど、いくつか演奏が出ていますが、やはり手兵北ドイツ放送交響楽団との演奏が断然完成度が高いと感じます。上のYouTubeの演奏も素晴らしいですね。このディスクは晩年の演奏で、クオリティの高さは維持しつつも、力が抜けて軽妙で味わい深いです。
第1楽章はかなり速いテンポで、構築力のある演奏です。しかし、晩年のヴァントの上手い具合に力の抜けた音楽で、緻密なのに厳しさは感じられません。代わりに木管の艶やかな響きが印象的です。第2楽章はヴァントらしく過剰に遅くはせず、軽妙さを失わない絶妙なテンポ取りです。その中でロマンティックに歌いこんでいきます。北ドイツ放送交響楽団はもともと重厚な響きですが、リズムは軽妙でシューベルトらしさが出ています。第3楽章は少し速めのテンポでリズミカル、かつ重厚に演奏しています。こういう響きは晩年のヴァントだからこそだせるものですね。中間部はオーストリアの自然を感じさせるような音楽で実に味わい深いです。第4楽章は速めのインテンポです。重厚な響きなのに軽快な音楽で、スリリングですが格調も失うことはありません。
非常に充実感のある名盤です。モダンオケのスタンダードな名演を聴きたい方には特におすすめの演奏です。
ネーメ・ヤルヴィ=ストックホルム・シンフォニエッタ
ネーメ・ヤルヴィはストックホルム・シンフォニエッタとシューベルトの初期の交響曲を録音しています。民族音楽が得意なイメージのあるネーメ・ヤルヴィですが、意外にもシューベルトはしなやかで非常に良い演奏です。第5番は小編成のストックホルム・シンフォニエッタに相応しく、モダン・オケですがメリハリがあり、リズミカルな好演です。録音年は1988年でアーノンクールの全集が発売される前のディスクです。ネーメ・ヤルヴィのセンスの良さを感じさせます。
第1楽章は、速めのテンポで小気味良く、弦はシャープで軽妙、木管も明るく色彩感があります。自然で爽やかでありネーメ・ヤルヴィの長所が出た演奏です。第2楽章も軽妙で明るさがあります。その中でロマン派的な流麗な歌いまわしで、軽妙さを失わなず、じっくりと聴かせてくれます。転調にともなう精妙な色合いの変化がとても良いです。短調になるとテンポを落とし、さらにじっくり聴かせてくれます。第3楽章は速めのテンポでシャープさがありリズミカルです。中間部は明るく木管とホルンの絡みが素晴らしいです。第4楽章は速いテンポで飛ばしています。明るくしなやかさもあり、楽しく聴けます。メリハリもありスリリングです。
ピリオド奏法以外の軽妙な演奏を探している人には、モダン楽器の小編成のこのディスクはお薦めです。録音も良く色彩的です。この曲の良さを自然に表現していて飽きさせません。
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楽譜・スコア
シューベルト作曲の交響曲第5番の楽譜・スコアを挙げていきます。
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