ボフスラフ・マルティヌー (Bohuslav Martinu,1890-1959)作曲の交響曲第4番 H.305 (Symphony No.4 H.305)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
マルティヌーの交響曲第4番について解説します。
マルティヌーはチェコの作曲家です。チェコの自然を描いている作品が多いですが、作曲技法はフランスの流れを汲んでおり、ルーセルに師事しています。点描のような色彩感あふれる音楽は、フランスの流れを汲むものだったのですね。
交響曲第4番はマルティヌーの交響曲の中で唯一長調の交響曲です。第2次世界大戦でマルティヌーはアメリカに亡命しますが、太平洋戦争が終結した1945年にアメリカで作曲されています。戦争終結の喜びとチェコへの望郷の念が描かれています。この時は戦争終結により「チェコに帰ることが出来る」と考えていたのです。その後、チェコが共産化されると、マルティヌーは帰国を諦め、ヨーロッパまでは戻るもののチェコへの帰国は叶わず、スイスで生涯を閉じます。
アメリカの影響も大きく、アメリカ的な素材や映画音楽の影響が感じられます。マルティヌーの交響曲はフランスの影響を受けていることもあって、掴みどころのない曲のように感じます。その中で交響曲第4番は比較的親しみやすいもので、入門には良い曲だと思います。ただ、6曲の交響曲の中で特に優れているとも言えませんけれど。この曲で聴き方が分かったら、交響曲第6番などを聴いてみるのがお薦めです。
良さに目覚めるのが大変なのがマルティヌーだと思います。この曲にはテンシュテットによる明快な名演があり、これが入門に良い名盤です。
おすすめの名盤レビュー
それでは、マルティヌー作曲交響曲第4番の名盤をレビューしていきましょう。
テンシュテット=シュトゥットガルト放送交響楽団
テンシュテットとシュトゥットガルト放送交響楽団の演奏です。テンシュテットは特別マルティヌーが得意という訳ではありませんが、近代音楽では名演を多く残している指揮者です。このマルティヌーはドラマティックで分かり易いです。それと共にマルティヌーの特徴ともいえる色彩的な点描のような音楽もしっかり演奏しています。マルティヌーに目覚めるのに十分な名演で、聴き所、あるいはマルティヌーの聴き方が分かると思います。
第1楽章はマルティヌーらしい点描のような色彩的な音楽です。テンシュテットはメリハリを付けて、感情表現も強く、理解し易い演奏と言えます。本来は、抽象的な部分がマルティヌーの良さかも知れませんが、そういう方向の名演は沢山あるので、テンシュテットのようなアプローチは貴重です。第2楽章はスケルツォ楽章にあたりますが、テンシュテットはリズミカルでダイナミックな演奏を繰り広げています。この楽章は軍隊や機械を思わせるようなダイナミックさがありますが、そういう要素も明快に描いています。ダイナミックになってくると豪快と言える位でシャープで荒々しい演奏です。
第3楽章はマルティヌーらしい色彩感と精妙な自然美に溢れています。テンシュテットは戦争の悲劇を描いている不吉な雰囲気もストレートに表現していきます。精妙な色彩感のある部分も色彩的ですが、感情表現は忘れません。終盤に向けて段々と表現が深まっていきます。第4楽章はダイナミックでメリハリが強いです。リズミカルで戦争の影響が感じられ、ショスタコーヴィチを思い起こすような軍隊的な音楽と点描のような音楽が入り混じりますが、しっかり描き分けています。そして混沌とした部分も巻き込んでとてもダイナミックに盛り上がります。ラストは金管の圧倒的な演奏で締めくくります。
ビエロフラーヴェク=チェコ・フィル
ビエロフラーヴェクはマルティヌーのスペシャリストです。しなやかな表現でチェコ・フィルから色彩感溢れる響き紡ぎだしています。点描のような色彩を上手く活かしたうえで、しなやかに描き分け、マルティヌーの本質を突く演奏です。何より響きが美しいです。比較的分かり易い演奏でもあります。
第1楽章は非常に色彩的で抽象的な表現です。その上でしなやかで聴きやすい音楽としてまとまっています。メリハリはそこまで付けていないため、テンシュテットほど分かり易くはありませんが、本来はこんな音楽だと思います。第2楽章はシリアスでリズミカルですが、色彩感を大事にしています。残響も多く、色々な音が入り混じって、独特の色彩を生み出しています。中間部の自然美と爽やかさも素晴らしいです。透明感があり、淡い色彩のある世界です。
第3楽章はシリアスですが精妙な色彩感に溢れていて深みも感じられます。色彩や和声の変化を絶妙に表現していて、時に圧倒されるくらいです。北欧の音楽ではありませんが、オーロラのように圧倒される所もあります。後半は壮大に広がりを持ちつつ揺れ動きます。第4楽章は、シリアスで少しグロテスクさがあります。チェコ・フィルの金管は上手いですね。弦はダイナミックな楽章でもしなやかさと色彩を常に持っています。そして深みもあります。弦と金管+パーカッションを対比させつつ進んでいきます。ダイナミックになってもマルティヌーの音楽の範疇を超えず、常に色彩を伴って盛り上がっていきます。
トゥルノフスキー=チェコ・フィル
トゥルノフスキーとチェコフィルの演奏です。トゥルノフスキーはチェコ出身の指揮者です。このコンビのマルティヌーは、色彩よりもメリハリのある表現が中心で、理解し易い演奏と思います。この第4番はレコードグランプリを受賞した名盤です。第1楽章から上手く整理されていて、理解し易いです。聴き物は第3楽章で、素晴らしく奥の深い表現で、とても味わい深いです。1960年代の録音と思えば、音質はかなり良いと言えます。第4楽章もシリアスで素晴らしい演奏です。
こんにちは。マルチヌー、大好きです。テンシュテット盤やトゥルノフスキー盤とはなかなか渋いセレクトですね。交響曲は他にもノイマン盤やビエロフラーヴェク新盤(BBC)も推薦盤です。それから、マルチヌーといえばVn協奏曲(特に第2番)が近年頻繁に取り上げられているように感じています。ついにマルチヌーもコンサートレパートリーとして普及しはじめていると思うと、ファンとしては嬉しい限りです。機会があれば、Vn協奏曲に限らず是非記事化してほしいです。
まだ他の作曲家の曲も不十分なので、なかなかマルティヌーまで行かないのですが、入門編で分かりやすい演奏を選んでみました。やはりビエロフラーヴェクが一番良いな、と思います。あとはロジェストヴェンスキーも良い演奏だったと思うので、他の番号でお薦めしたいですね。Vn協奏曲は聴いたことがありませんでした。良い情報ありがとうございます。