ガーディナーの「ベートーヴェン作品61」は、楽器の発音のさせ方が素晴らしい。「デュナーミクが上手」とか「アーティキュレーションの表現が上手」という言い方は、この演奏については、有効なコメントになりにくいと思う。なぜなら、この演奏はピリオドオーケストラによる演奏であり「デュナーミク」「アーティキュレーション」は特殊、または(単純には言えないがモダンオケに比べ)不得手なオケによるものだからである。にもかかわらず、ガーディナーの「作品61」から「耳に心地のよいサウンド」が聴けるのは「楽器の発音のさせ方が上手いから」と、とらえるのが最も適当に思える。ガーディナーは、アゴーギクにもこだわっているのだろうし、演奏の流れにおいて、若干、間を入れたりもしているように聞こえるが、それらの小手先の技よりも、スコアに対する読みが適切であるという感じが強い。ただ、「スコアに対する読みが適切である」といっても、それだけなら、それは、その他の指揮者の演奏にも当てはまる。「流れが良い」という言い方も、ちょっと違うような気がする。ガーディナーとムローヴァの「作品61」の演奏を一言でいえば「知的」という表現が最も適切な形容かも知れない。それはカップリングされているメンデルスゾーンに、より明確に現れているかも知れない。
2002年録音