ネゼ=セガン(Yannick Nezet-Seguin 1975-)指揮、モントリオール・メトロポリタン管弦楽団による、ブルックナー(Anton Bruckner 1824-1896)の「交響曲 第7番 ホ長調」。2006年のライヴ録音。ノヴァーク版で、第2楽章のシンバルは採用している。
録音時、ネゼ=セガンは31歳という若さであるが、悠然とした風格と、優美な流れの良さを持ち合わせた、味わい深い演奏を繰り広げている。
第1楽章冒頭から、少し遅めのテンポを設定し、柔らかな光を感じさせる力配分で、オーケストラから自然な音を引き出している。録音も、環境も含めて良好で、演奏の力の方向、それにかかわる楽器の演奏志向が明瞭に聞き取れるもので、この楽曲ならではの録音映えが感じられる。息の長いフレーズは、暖かみをもって表現される。この響きから私が連想する単語は、「慈愛」であろう。ぬくもり、光、曲線、そういったイメージが交錯しながら、美しく音楽を描いていく。
元来、この楽曲の第1楽章と第2楽章は、とても良く出来た音楽であり、どのような演奏であっても、概してうまく行くのだけれど、ネゼ=セガンとモントリオール・メトロポリタン管弦楽団の間には、親密な関係があり、それゆえの配慮の深さとなめらかさがあって、さらに魅力を増していると感じられる。
第2楽章も感動的だ。金管と弦の適度な抑制からもたらされる安らぎの感覚。その一方で弛緩を感じさせない明瞭なフレージングが効いていて、実に心地よい。暖色系の音色で豊かに盛り上がるクライマックスは気品を崩さず、気高さを備えている。
後半2楽章はリズミカルでシンプルな仕上げ。スケルツォは運動美が心地よく、音色も暖かな深さを維持しているので、併せて味わいがある。終楽章はテンポも速めとなり、サラリとした軽やかな雰囲気。この終楽章に、最近ではロマン派特有の濃厚さをもたらす解釈もあるが、ネゼ=セガンはさりげない。コーダでは、気の利いたアッチェランドがあり楽しい。
総じて、録音時のネゼ=セガンの若さを感じさせる感性と、それだけではない風格があいまった名演であり、名録音の多い当該曲の中で、他の名盤と比較しても遜色ない見事な出来栄えを示している。