ドイツの指揮者ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil 1949-)とピリオド楽器によるクラシカル・バンドによるシューベルト(Franz Schubert 1797-1828)の下記の名作2曲を組み合わせた録音
1) 交響曲 第8番 ロ短調 D.759 「未完成交響曲」
2) 交響曲 第9番 ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」
1991年の録音。
いかにも小編成のピリオド楽器オーケストラらしい演奏。速めのテンポで、弦楽器の響きは薄めで、代わって管楽器とティンパニの音の支配力が増している。テンポは全般に速い。ピリオド楽器の演奏の場合、リピートも忠実に行うことが一般的であるが、当録音では、カットを採用しており、演奏時間も短い。個人的には、ピリオド奏法の執拗なリピートは、飽きを招くことがあるので、リピートのカットは良い判断に思える。
全体としては、とにかく軽やかで、風通しのよい演奏。未完成交響曲も、悲劇色はあまり感じられず、明るい。両曲とも細かいアクセントが入ることで、リズムが明瞭化されており、テキパキ感が強い。この演奏を聴いていると、いわゆる名曲的な、情動の大きさとか、聴き手への心理的影響の大きさは、強くなく、むしろそういったものを、すっきりと洗い流して、平衡化を目指した感がある。
これは、ピリオド楽器による演奏全般に言えることだが、様々な制約によって、演奏の内容が均質化し、ことに浪漫派の名曲では、現代楽器による演奏と比較して、その名曲特有の芳醇な香気が、希釈化される傾向にある。たまに聴くと面白いけれど、あまりにもそういう録音ばかりが並んでくると、その価値を再考したくなる。確かに、作曲当時の楽器を使用すれば、当時のスタイルに近い演奏にはなるのだと思うが、作曲当時は、録音技術はなかったし、それゆえに、演奏毎の個性という価値観も現代とは違っていたに違いないので、現代では現代の芸術の敷衍の仕方というものがあると思う。少なくとも録音芸術についてはそうであろう。
と書いていると、ネガティヴな印象ばかりになるかもしれないが、この演奏自体は、ピリオド奏法の特徴を活かしながら、質の高いものを提供できていて、悪くない。特に交響曲第9番、第2楽章の弦と木管が交錯しつつ、楽想を深めていくところの風合いは印象深く、その美しさは心に残った。