私のCDライブラリーのなかでも, 演奏と録音の出来具合が ほぼNo1と言ってもよい一枚の [STRAVINSKY THE FIREBIRD / VALERY GERGIEV – KIROV ORCHESTRA, ST PETERSBURG / PHILIPS PHCP-11121 (446 715-2)] を聴くとき, 身の毛もよだつ物凄い世界が現れる。超低域の地鳴りのような空気動から, 繊細で鋭い高域に至る音がごく自然な空間の拡がりとともに, 現実感を強く演出している。 トラック⑪「魔法のカリヨン怪物たちの登場, イワン王子捕らえられる」での, 1分20秒位からの, 空間をたなびく音響の壁は圧巻である。私がオーディオに求めてきた, あらゆる解答がここに集約されているかのようだ。その音響の壁が途切れての 1分51秒のグランカッサの迫力は, 今までで最高のパワーを秘めている。今でも私は, 様々な音の集合体である この音を全部聴き分けることが出来ないでいる。私の重視するテンポの自在な秀抜さにおいて,この指揮者は今まで現れた人々とは一桁擢んでているのである。まるで, 全盛時のチェリビダッケのように, 作曲者の精神を拡大して見せる魔法を持っているかの様でさえある。シリアスに言えば,21世紀の音楽芸術の夜明けを告げるかのように, そして20世紀のカラヤン達をあざ笑うかのように,その全貌を現わしつつある。それにしても, この録音技術の見事な事といったらない。最初は何処にも歪みと呼ぶ音は存在しないように思えた。広い透明感の中にも, 鋭い現実感あふれる音達を, これ以上かなわぬ程のリアルさで捉えている様に思えた。それがゲルギエフの芸術性と合体しているのだ。これ以上何を聴こうというのだ。これ以上何を捉え様というのだ。以下はゲルギエフ指揮「火の鳥」のレコーディング・スタッフなどのクレジットである。
Large Holl of St Petersburg Philharmonic, St Petersburg, 4/1995
Executive Producer: Anna Barry Recorded with Jaap de Jong vacuum
Artist & repertoire Production: Hermine Sterringa tube equipment
Recording producer: Hein Dekker Mixdown monitored on Audio Static
Balance engineer: Thijs Hoekstra loudspeakers
Tape editing: Carl Suurbiers, Rico Yntema
右上に記されている, ヤープ・デ・ヨング氏製作の真空管式録音機材は,ゲルギエフ指揮の「ストラヴィンスキー/春の祭典」や「チャイコフスキー/交響曲第6番」(1997年のミッケリ盤)などに使用されていて, その後のゲルギエフの最新録音よりも高音質である。