シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957)の生誕150年にあたる2015年の完成を目指して着実に進められている尾高忠明(1947-)指揮、札幌交響楽団による交響曲全曲録音の第3弾。今回収録されたのは、以下の2曲。
1) 交響曲 第4番 イ短調 op.63
2) 交響曲 第5番 変ホ長調 op.82
2014年及び2015年、札幌コンサートホールKitaraでライヴ収録されたもの。
当シリーズをこれまでずっと聴かせていただいているが、今回も期待に違わない素晴らしい演奏だ。札幌交響楽団の淡い色合いを持った弦楽合奏のベースが、これらの楽曲の特徴に合致し、音響と旋律の相補的な関係が、とてもマッチしている。
交響曲第4番は難渋さのある楽曲で、シベリウスの音楽を深く愛する人以外には、なかなか聴かれることは少ないと思う。しかし、最近になって、この曲の解釈は様々に深まっており、その進化を楽しめるようになってきた。当演奏は、室内楽的な緊密さをベースとしながらも、時に旋律の断片に情緒的な味わいを加えることで、とても中庸を得た解釈となっているだろう。ほの暗い響きのなかから、北国を思わせる情感に溢れた楽器の響きが届いたとき、胸をすっと清涼な風が吹き抜けたかのような、透明な残り香を置いていく。時折垣間見られる飛躍的な展開も、間合いが自然で、緊密な受け渡しがあり、そのことで全体の均衡性が確保される。時に散漫さにつながりかねない難しい楽曲だけに、当演奏の質の高さを感じさせてくれるところだ。
交響曲第5番は逆に大らかな幸福感に満ちた音楽で、私も音楽を聴き始めたころから馴染んだ作品。この曲になると尾高の指揮も、より柔和な音響美にウェイトを移しており、豊饒で柔らかな金管の音色が広がっていくのを感じる。第1楽章のフィナーレ、それに第3楽章の解放感も自然賛歌的な大らかさに満ちていて、この曲になによりもふさわしい表現だと思う。その中間にある第2楽章の描写性のある素朴なニュアンスの交錯も、それぞれのフレーズが静謐さを持ちながらも暖かく行きかっていて、ぬくもりに溢れている。
それにしても、聴いていて、なぜか「北国の音」という感じがするのは不思議である。特に木管の透明な旋律が鳴るとき、弦のグラデーションがやや暗い色彩で広がるときに、私は北国の音色を感じ、そう形容したくなる。当録音にはそんな瞬間があちこちにある。シベリウスと札幌交響楽団の間に、北国的なシンパシーが通ったように感じ、うれしくなった。