デュトワの「マ・メール・ロワ」を聴いて、フランスものでは当代随一という気がした。鋭敏すぎる感覚をそのまま出すことなく、あたかも最上のシルクのヴェールで包み込んだような風情があり、その実、知的なエスプリと卓抜なユーモアをその背後にしかと感じさせる、こういった演奏スタイルはラヴェルにまさに向いている。
前奏曲から第5場まで、マザーグースの寓話が情景とともに浮かび上がる。紡ぎ車の踊り、パヴァーヌでは、眼前に眠れる森の美女が玲瓏として現れるような錯覚すらある。美女と野獣の対話、一寸法師、妖精の園へと聴きすすむにつれ、物語の進行におもわず引き込まれる。デュトワの妙技といえよう。