今やロシアの指揮者というと、ゲルギエフが一人注目されているようなきらいがあるが、このテミルカーノフも
素晴らしい力量を持った指揮者であると思う。筆者はこの組み合わせでショスタコヴィッチの5番を聞いたこ
とがあるが、この交響曲が20世紀の現代作品というだけでなく、金管楽器の憂いのこもったフレージングといい、
チャイコフスキーから綿々と続くロシアンシンフォニーの伝統の流れに沿った作品であるということを明
確に示すものであった。
このラフマニノフにおいてもゆっくりとしたテンポで彫りの深い情感のこもった演奏が繰り広げられる。
管楽器の憂いを持った表情、全体に漂う失われたものを懐かしむ悼みを伴う雰囲気、素晴らしいと思う。
余白に入ったヴォカリーズは名指揮者ザンデルリンクの編曲だそうであるが、そういえば彼も超絶的に
遅い、しかし素晴らしく深いラフマニノフの2番の名演をフィルハーモニアと録音している。