モーツァルト交響曲は1960年代にベームで聴き始め、バーンスタイン・ウィーンフィルの優しくしなやかで味わい深い演奏に何十年も心酔しているので十分と思っていたが、ブリュッヘンの38番が良かったので、この盤も購入した。
40番はことさら悲壮感をあらわにすることなく、軽く鮮やかに演奏していて好感が持てる。小編成で弦と古楽器にヴィブラートを掛けない演奏は幾分硬質な音色に聴こえるが、透明感があり清らかさがあふれている。特に2楽章、3楽章などブリュッヘンの流れるような音楽は木管の独特の音色も相まって聴くものを引き付けてやまない。
41番は古楽のピッチの低さとゆったりしたテンポにより落ち着いた感じで始まるが、40番と並んで名演と言ってよい充実感がある。各パートの動きが鮮明に分かる明晰な演奏でありながら、全楽章にわたり集中力が極めて高い。特に、第二、第三楽章の木管と弦パートの絡み合いなど天上の音楽世界を醸し出している。
圧巻は第四楽章でブリュッヘンはあらゆる方法で音楽に変化をつける。四つの主題による対位法の立体的造りを明確にし、ティンパニを強調し、ペザンテを効かせてアクセントを付けるかと思えば軽く流し、この音楽が持つ面白みを完全に引き出している。恣意的と感じる方もいることと思う。しかし、コーダのホルン第一主題から数小節後の乱れも含めて、ライブ録音の奔放さを存分に楽しませてくれる。
じっくりとしなやかさを味わいたいならウィーンフィル、透明感と刺激的な面白味では18世紀オーケストラと言ったところだろうか。明らかに名演奏である。