伝説の名盤がリマスターされて復刻との情報を得、早速Amazonにて入手し、聴いてみた。
これは「超名演」の噂に違わぬ名演中の名演だ。本盤に対する「ヴァント、シューリヒト、朝比奈と並ぶ名演」という宇野功芳氏の評論は的を得ている。
全曲通して金管・弦楽器共に縦の線がぴっちり合った非常に精緻な演奏でありながら、リズミカルで躍動感がある。1音1音に、各フレーズに意味があると感じさせる、めりはりの効いた演奏という印象。
かといって作為的かというとさにあらず。音楽は極めて自然体。あるがままに流れている感じがする。それでこそブルックナーの音楽だと思う。
本盤における金管の迫力は圧巻!!しかし弦楽器の響きもそれに負けないくらい主張している。その弦のうねりようがまた素晴らしいのである。
ヨッフムの指揮もさる事ながら、ミュンヘンフィルの演奏も讃えるべきだろう。チェリビダッケに鍛え抜かれたオケの、息の長い迫力ある金管と木管、豊穣なうねりと弱音の静謐を奏でる弦楽器群は特筆に値する。
抜群の高音質の本盤。音源はバイエルン放送のマスターテープとの事だが、ライブ録音でありながら管と弦、高低音のバランスは絶妙だ。
また、非常に抜けのいいクリアな音質は聴くにつけ快感を覚える。
第1楽章の荘厳さと高揚感が素晴らしい。リズミカルで旋律も豊かに流れ、聴き慣れているこの曲が新しい息吹きを吹き込まれたかのように非常に新鮮に聴こえる。
第2楽章スケルツォは聴きものである。咆哮する金管の圧倒的迫力にはカタルシスを覚える。これが前述したように縦の線がぴったり合って、その精緻さにはため息が出てしまうほど。凄い。凄いという以上の形容を思いつかないくらいに凄い。
テンポの変化にはメリハリが効いており、躍動感があって小気味良い。この血湧き肉踊るようなリズム感がたまらない。
各主題における弦楽器の重厚な響きも圧巻。
そのうねること!!
第3楽章アダージョは本盤の白眉。たおやかな弦楽器の響きとうねり。金管の叫び。時に穏やかに、時に荒れる、まるで大海を行く船上にいるような感覚を覚える。
恰幅があり、スケールも大きいが緊張は最後まで途切れる事なく、エンディングの消え入るような、あの長いホルンのソロで終結を迎える。大海原を行く船が水平線の彼方に消えて行くような、そんなイメージを私は持った。
全曲聴き終えた時には思わず唸ってしまったほどだ。まさに極上の名演である。私の拙い表現でこの感動を十全に伝える事は不可能。ただ、このような名演にめぐり逢えた事は私にとっては至上の喜びであるとだけ申し付け加えたい。
百聞は一見(一聴?)にしかず。まずは聴いてみて下さいと申し上げる他はない。
ヨッフムの最晩年の録音だが、これがヨッフムが晩年に至ってたどり着いたブル9に対する境地なのだろうか、まるで自らの命と引き替えに、このブルックナーの最後の交響曲に命を吹き込んだかのような印象を受ける。血が通った演奏とはこういう事を言うのだろう。この生命力と緊張感は半端ない。
なぜこのような名演が、一部のマニアには知られてたとはいえ、長い間眠っていたのか不思議でならない。
ちなみに、併録の「トリスタンとイゾルデ」前奏曲も絶品!! 息を飲むような陶酔感が味わえる。
ブル9の名盤と言われるディスクを数種聴いてきたが、ベストワンは?と問われれば、私は迷わず本盤を挙げたい。レコ芸特選も納得の、音質・演奏共に第一級品である。
ヴァントも朝比奈隆もシューリヒトも聴いたというブルックナーマニアの皆さん、是非聴いてみて下さい。私的には、このヨッフム/ミュンヘンフィルのブル9はそれ以上の、空前絶後の名演だと思います。