ヴィヴァルディにインスピレーションを与えた作者不詳のソネットには北イタリアの四季折々の田舎の生活が歌われていて、ヴィヴァルディはこれらの詩の内容をほぼ忠実に追って作曲した。ファビオ・ビオンディ率いるエウローパ・ガランテはそれを彼らの豊かなファンタジーとアイデアで巧みに描写し尽くしている。画家ピーテル・ブリューゲルは農民や狩人達の姿を活写した歳時記的な多くの名画を遺したが、この『四季』はあたかもブリューゲルの絵画がアニメーション化されたかのような愉しさがある。「春」冒頭のかまびすしい鳥の囀りや第2楽章の番犬の吠え声の強調はユニークだし、「夏」では稲妻と激しい雷鳴を伴った嵐の情景が目に浮かぶような、ドラマティックで一気呵成の表現が冴えている。「秋」では第2楽章での満ち足りた人々のまどろみをチェンバロが即興演奏で幻想的に描き、終楽章では勇む狩人の意気込みが伝わって来る。また「冬」の凍てつくような空気感と氷の上で滑って転ぶ人の可笑しさなどが次々に映し出されていて、聴き古された曲がそのリアルで映像的な効果で聴く者を飽きさせない。標題音楽はヴィヴァルディに始まったことではないが、ソネットと一体化した描写を試みる彼らのアンサンブルとしての結束と技量も高く評価したい。
『四季』が含まれる『和声と創意への試み』作品8は12曲からなる協奏曲集で、標題が付いたものにはその他に第5番変ホ長調『海の嵐』、第6番ハ長調『喜び』、第10番変ロ長調『狩』などがあり、それぞれがタイトルをイメージさせるような凝った曲想で作曲されている。第7番ニ短調は題名の付かない独奏ヴァイオリンと弦楽、通奏低音のための協奏曲だが、この作品はヴィヴァルディの弟子でもあったドイツの作曲家、ヴァイオリニストのピゼンデルに献呈されている。特にこの曲の終楽章はダブル・ストップの連続で、「ピゼンデル氏のために」の添え書きに相応しい高度なテクニックが要求される難曲だ。ビオンディの使用楽器は1732年製のフェルディナンド・ガリアーノのコピーになるが、張りのある明るい音色を生かしたパフォーマンスが特筆される。尚音源は2000年にオリジナル手稿譜から初録音されたもので、今回はそのリイシュー盤になる。