ショスタコーヴィチの最高傑作は第4、第8、そして第15のラスト・シンフォニーということでほぼ衆目は一致するだろうが、第10も捨て難いし、第8や第14を挙げる人もいるだろう。個人的には第7『レニングラード』が好きだ。さらに、ソヴィエト当局から「大いなる肩透かし」として大顰蹙、否、粛清になりかねない事態も予見された第9も傑作だ!! 最高傑作は第9という意見にも大いに頷く。
しかし、今回ゲルギエフの最新盤を耳にして真っ先に思ったのは、「第15こそショスタコの真髄」ということ。何という作品であろうか!! もしこの作品に『ウィルヘルム・テル』や「ジークフリートの葬送行進曲」のテーマが引用されていなかったら、まことに“暗黒”のシンフォニーだったかもしれない。そんな物言いは意味がないけれども。
ゲルギエフに対しては、その容貌から(?)荒っぽいマッチョ一辺倒の指揮者と評する音楽批評家も散見されるが、そんなことはまったくない。真逆ではないのか。
第15の演奏に素直に耳を傾ければ、狂気と紙一重なまでの異様に繊細な配慮とそれが自然な楽音の流れになって間然とするところがないのに気づかされる。
「指揮者の顔」など、この演奏にはひとつも現われてはいない。
「このフレーズの演奏は指揮者の手腕であるな」などという“普通の名演”で見られる要素は少しも感じない。ただただ、作品自体の異常さ、すなわち凍りつくような諧謔、葛藤・相克の果ての絶望、突き抜けた慟哭、そのまだ先にある祈り等々の物凄さに圧倒されるのみである。奇蹟的な大傑作だ。評者は時にブルックナーよりも上ではないかとさえ思わせられた。そんなことは滅多にない。
それにしても、フィナーレのエンディングの表現しようもない摩訶不思議の「行ってしまった」調べ!!
録音も最上。オケも素晴らしいが、いかんせんライヴを聴いたことがないのがゲルギエフ評価の悩ましいところ。とは言え、本ディスクは収録された第1ともどもまさにベスト!!! 『レコ芸』の評価は如何? なお、当方購入の輸入盤には日本語解説は付いていない。輸入盤にもいろいろあるのか。
これを聴いた人は、アーサー・ケストラーの傑作小説『真昼の暗黒』(岩波文庫)を読まれたし! 私見ながら、第15はこの小説のテーマ曲と言えなくもない。