私がなぜヤナーチェクに惹かれるかと言うと、彼が音楽史上まれに見る大器晩成型の人だということがあります。おそらく、自分自身の内心に、成功を狙っての単なる模倣や妥協を許さない強さがあってのことだろうと思います。そうした粘り強さと率直さを、見習いたいものです。
最初の「狂詩曲『タラス・ブーリバ』」の欧文解説によれば、シュトラウスやマーラー、ノヴァークやスークといった作曲家たちに感化された大管弦楽の表現の可能性を、自分なりに消化して行使しようという試みから生まれたものということです。……しかし、シュトラウスやマーラーといった独墺後期浪漫派の音楽とは、何という違いでしょうか。洗練と拡大の極みで(もちろんそこが彼らの美点としても)息も絶え絶えの音楽とは正反対の、活気と色彩感に満ちた音楽です。聴き直してみて改めて感じたのは、リズム感が独特の強烈さを持っていること。そして簡潔にまとめられていて、多彩なアイディアが空転していないことです。
この作曲家が歌劇に多くの傑作を持つという先入観もあるのかもしれませんが、最後の2曲が「バラード『ヴァイオリン弾きの子供』」と「交響詩『ブラニーク山のバラード』」であり、曲を貫く物語的な楽しさと活気に心惹かれました。(ちなみに『タラス・ブーリバ』もゴーゴリの文芸作品に因むものです。)
その他の曲は「管弦楽のためのアダージョ」「管弦楽のための組曲op.3」「序曲『嫉妬』」「コザックの舞曲」「セルビアの舞曲」です。全体的には、己の壁を突き破って立ち上がる巨人の、ゆるぎなく個性を具えてきた歩みの始まりを印象づける曲集です。
1980年代後半から90年代前半の録音で、管弦楽の響きが柔らかく瑞々しいのがとても魅力的です。どうも私たちは独墺や米国の有名管弦楽団ばかりをもてはやす傾向がありますが、ネームバリューばかりが大切でないことも弁えておかねばなりませんね。
星4つとしたのは、私自身にこれらの曲をしっかりと味わうだけの素養があるのだろうかと思ってしまったことと、他にも素晴らしい曲があることを考えると星5つは贔屓の引き倒しかなと思ったことからです。
ありきたりでない、新鮮な音楽を求める方には、私が受けた以上の感銘がきっとあると思います!