今年2012年に同じスプラフォンからリリースされた同メンバーによる8枚組の交響曲全集に入っていないオーケストラル・ワークが、こちらの方に収録されている。幸い両者の選曲にだぶりがひとつもない。曲目は『チェコ組曲』ニ長調Op.39、序曲『フス教徒』Op.67、序曲『我が家』Op.62、『ノクターン』変ホ長調Op.40及び『スケルツォ・カプリッチョーソ』Op.66の5曲で、いくらか古いセッションだが2005年のデジタル・リマスタリングによって瑞々しく鮮明な音質と臨場感が再現されている。ライナー・ノーツは18ページで録音データの他に英、独、仏、チェコ語の解説付。
ドヴォルザークの初期の作品になる弦楽合奏のための『ノクターン』はチェコ・フィルの弦の音色の美しさを堪能させてくれる小品だ。弦の国と言われる伝家の宝刀をノイマンが巧みに引き出した、明るく艶やかで、しかも陰影豊かな表現は流石だ。この曲にはドヴォルザーク特有の民族性はないが、ロマン派の抒情に満たされている。一方『チェコ組曲』ではポルカやフリアントの伝統的な舞踏のエレメントが使われていて、華やかな民族色をかもし出しているのが特徴だ。フルートやコーラングレーなどの木管パートの際立ったソロも特筆される。
序曲『フス教徒』はこのCDに収められている曲集の中でも最も作曲技巧を凝らせた作品で、15世紀初頭に実在した宗教改革家ヤン・フスと彼に従った布教者達の劇的な物語のための音楽だが、それはベートーヴェンの『エグモント序曲』に通じるものがあるだろう。この曲は1883年に修復を終えたプラハ国民劇場こけら'落としのオープニング・セレモニーの折に初演されたそうだが、作品の性質上、程なくチェコ民衆の愛国心を煽る結果になったことは想像に難くない。それは当時のオーストリアからの政治的重圧への彼らの抵抗でもあった筈だ。こうした曲を本家の演奏で一度は鑑賞してみる価値があるし、その力強さと一種の熱狂は格別のものがある。