村上春樹氏の小説で注目を集めたヤナーチェクの『シンフォニエッタ』。直訳すると小交響曲という意味だが、全5楽章からなっており楽器編
成も非常に大きく(通常編成のオケに加えてトランペット9、テノール・チューバ2、バス・トランペット2が加えてある)、その題名とは裏腹にとて
もパワフルな内容である。交響曲の「お約束」であるソナタ形式に捉われず、故郷モラヴィアの民謡の旋律も取り入れながら自由に音楽を創
っている。しかもそのモラヴィア民謡の音階というのが日本の邦楽にも似た五音音階なので、どこか懐かしさというか我々日本人にも親しみ
やすい楽曲である。1926年、ヤナーチェク最晩年の傑作である。一方狂詩曲『タラス・ブーリバ』はやはりヤナーチェク晩年の1918年の作。
ロシアの文豪ゴーゴリの同名小説を読んで感銘を受けたヤナーチェクは小説の内容を元に3楽章形式の狂詩曲を書き上げた。コサックの英
雄タラス・ブーリバと息子たちの勇猛な戦いぶりと悲運の最期をドラマティックに描いた力作である。
ラファエル・クーベリックは母国チェコの音楽の伝道者として多数の録音を残したが、このヤナーチェクのアルバムもそうしたものの一つ。197
0年5月、ミュンヘン、ヘルクレス・ザールでの収録。威風堂々として構えも大きく、それでいて細部のディテールも丁寧に表現している。母国
の先達への敬意を抱きつつも決してローカル的にならず、品位あるバランスを保っているところがいかにもクーベリックらしい。手兵バイエル
ン放送交響楽団の豊潤な響きも美しい。音質も良好であり、クーベリックの数ある録音の中でも至高の名演といっていいのではあるまいか。